糞害

最近は一寸暑くなってウオーキングには最高の季節とは言えないが、それでもやはり小径を物思いにふけながら歩いて行くのはなんとも言えない爽快感がある。私が歩いている道は｢緑道」といって、２キロメートル弱の散歩用に出来ている道で細いが周囲には季節の草花が配置されていて、なかなか気持ちが良い。これらは地域の自治会や老人クラブのメンバーで維持しているようで、歩いているとその作業中の老人達に出くわすことがある。こんな風に人を気持ち良くするものを作っていると彼らも充実感に包まれるのだろうか、一心不乱にガーデニングに精を出している。

このようにウオーキングには非常に気持ちの良い小径だが、その気分がブチ壊しになる出来事がある。犬の糞だ。せっかく良い気分で歩いていると、その道の真中に大きいやつが排出されているのに出くわす。まだ湯気が立ち上っているようなものもある。性質の悪いことにこのあたりは新興住宅地で、ペットを飼っている住民が非常に多い。

このようなマナー違反をするものが多いので、道の所々には「糞の後始末をいましょう」という看板が立っている。また、放置された糞を毎日掃除して回る人もいる。それにもかかわらず、糞の数はかなり多い。ということは毎日毎日かなりのマナー違反がなされているということだろう。嗚呼、なんと嘆かわしいことか!

大雑把に見ると、約半分の者は糞の後始末をちゃんとしているようだ。残りの半数のうちで、その半分は後始末の道具は持っているが人が見ていなければそのまま放置しているような輩だ。残った者は端から後始末の道具さえ持ってなくて、糞を至るところで垂れ流し状態にしていると思われる連中だと思う。
先週、そのような一人に遭遇した。その緑道で私の５０メートルくらい前をペットを連れて２０才台の女性が散歩していた。ある地点で我々の距離がどんどん縮まってきた。それはそのペットが例によってその舗装された道の真中でウンチをしていたからだ。

ところがこともあろうに、その女性は道の真中にでっかいウンチを残したまま、立ち去ろうとした。ちょうど彼女に追いついた私は文句の一つも言ってやろうと彼女の顔を降り返って見た。「オイ!　糞ぐらいちゃんと後始末したらどうなんだ!」と言いかけて慌てて言葉を飲み込んだ。その女性は私の医院を時々受診する顔見知りだった。彼女はまるで罪の意識はないのか、私の顔を見ると「おはようございます!」と元気に挨拶してきた。私も挨拶を返してその場を離れた。この辺りが客商売の弱いところでもある。

毎日そのような情景を見ていると、ほとんどペットと同化しているように思える者もいる。ペットのためなら何でもする、というかペットが第一でその辺りを歩いている人間は二の次だという感じだ。この狭い道を大型犬を連れて、我が物顔に歩いてくる者もいる。そもそもこの小径は人の散歩用にできている道で、この小径には平行してもっと幅の広い道があるので、そちらを通れば良いのにこちらを犬の散歩用に使う者が多い。犬は飼い主に対しては忠実でも他人はどんな行動を取るか不安なものだ。人とすれ違う時に犬に狭い道の真中を歩かせたり、中には放し飼いで散歩させる者もいる。ペットのことだけ気になって、まるで周囲の状況が見えてないとしか言えない。

犬に癒しを求めているのか知れないが、最近のペットブームには常識を超えた入れ込み様を感じるし、なにやら現代人の疎外感の裏返しのような気がして寂しい気もする。この辺りは新興住宅地なので余計にそうなのかもしれないが、あまりにペットが多いしペットに対する関わり合いも度が過ぎているような感じだ。それも個人の嗜好の問題だと言えばそうなのかもしれないが、少なくともペットを飼っていると無意識のうちに、他人に迷惑をかけている可能性があることだけは気にかけていて欲しい。