母親による保険金殺人

何が驚いたと言ってこんな事件は想像も出来なかったし、世界でも前例はないのではなかろうか。奈良の準看護婦が保険金目的で自分の子供を殺害しようとした容疑で逮捕された。彼女は以前にも２人の子供を同様な経緯で殺害した疑いが持たれている。さらに自分の両親も同様に殺害しようとした容疑がかけられている。

これらはすべて保険金目的だと考えられるが、大した事業もしてない女性に大金が要るわけがなく、やはり背後には男性の影が見え隠れする。テレクラなどで知り合った複数の男性と交際があったようだし、金を貢いでいたふしがある。それにしてもこの事件では、母親が自分の子供や両親を保険金目的で殺害を企てるという、推理小説作家でも考えられないような筋書きで、犯罪において一つのタガが外されたような事件だと思う。今後、世界中で同じような事件が起こる先駆けになるのかもしれない。

我々の育った時代では周囲に強い母性を感じられたし、特に我が家では母親は子供のために自分の人生を犠牲にして送ってきたような感じだった。それだけにその期待に応えようとして、過酷だった受験勉強や社会に出てからの苦難を乗り越えてきたような気がする。そのような私から見ると、このような事件は想像だに出来ないが、母性というものも次第に変化していくものなのかもしれない。私自身は子供にベッタリの生活はしてないし、むしろ子供には最低の道筋を示すだけでほとんど放任の状態だし、生活も全く自分中心に送っている。また私の母親のように子供中心の人生が充実した幸せな人生かどうかも疑問に思っている。ただし、私にとってはこのような母親に育てられたのは幸せだったと思う。

対称的に哀れなのはこの犯行の犠牲者になったと思われる３人の子供達だ。２人は既に死んでいて取り返しがつかないが、今回助かった長女も、今からの一生をこの犯行の記憶と共に生きて行かなければならない。どんな人生が待っているのだろうか。やはりどのような母親を持つかで、その人の一生はかなり影響を受けると思われるし、その意味でこの兄弟は本当に可哀相だ。

この事件でもこの女性の精神鑑定が問題になるだろう。もし精神的に異常があるという鑑定結果が出たら少しは救われるが、もし正常の状態でこのような犯行を犯していたとすると、もう全く救い難いような気がする。日本も戦後５０年のいろいろな歪みが出てきていて、社会もかなり変化してきているが、犯罪もかなりの変貌を遂げてきているようだ。以前では考えられないようなオウム事件や今回のような事件が発生するようになってきている。

今回の事件は我々が永く絶対的に信じてきた母性に、疑念を投げかけるような点がありそれだけにショックが大きいと思う。社会が豊かになるというのはある面で素晴らしい事に違いないが、貧しかった頃には起こりえない事件が金がらみで起こってしまうというのも、非常に皮肉なものだ。
それにしても後味の悪い事件ではある。