アメリカ同時多発テロ

先週、世界中を驚愕させるような事件がニューヨークとワシントンで起こった。旅客機をハイジャックして乗客もろとも標的に突っ込むという自爆テロだが、標的がワールド・トレードセンターとペンタゴンというのが凄まじい。死者、行方不明者も５０００人を超えていると報道されている。まるで小説の中の話だが、それが実行されて、またすんなり成功するというのが全く信じられない話だ。

この事件自体は本当に悲惨で許されないテロだが、この事件にはさまざまな考えさせられる要素を含んでいるように思われる。一つはアメリカの防衛システムだ。そもそも世界で最も管制システムが厳重なはずのペンタゴンで、あれだけのテロが成功するとは誰も思ってなかったのではないか？　スターウォーズ計画など高度な防衛計画が報道されているが、自爆テロというある意味で原始的な方法でいとも簡単に突破されている。やはりどんなシステムも盲点があるもので、今回の事件などはそれを鋭く突いた形となっている。

防衛という面では、外からの攻撃には充分対処できても、一旦懐に入られると難しい面が出てくるのかもしれない。それに今回はハイジャック機による自爆テロという普通では考えられない方法を取っているので、なおさら難しかったのだろう。これは犯人自身の生命のみならず、多数の乗客の生命も犠牲にしてのテロであり、ここまで非道に覚悟を決められると防御するほうからはお手上げという感じなのかもしれない。しかし、大勢の人命がかかった話なので、どうにか防ぐ手立てを考えないとならないのは言うまでもない。

第２にアメリカはオサマ・ビンラディン氏を首謀者と決め付けて、アフガニスタンのタリバン勢力に彼を引き渡さないと攻撃すると通告しているようだが、ビンラディン氏が本当に首謀者か？　と言う点が疑問だ。中東問題の専門家でさえ、ビンラディン氏関与の可能性は考えられるものの首謀者とは言えないという者もいて、その評価ははっきりしてない。一般的にはイスラム原理主義を背景にした国際ネットワークのテロ組織があり、そのネットワーク全体で行ったテロの可能性が高いといわれているようだ。このような希薄な根拠で、彼を匿っているアフガニスタンに対し、多国籍軍を結成して総攻撃するというのはあまりにも乱暴な行為だと思われる。

現在は、テロの衝撃でアメリカ中が熱くなって、とにかく報復を熱望する気運が強いようだが、その雰囲気に世界中が引きずられて良いものか？　報復を行うということは、現在、アメリカ人が涙を流しながら訴えているテロの悲惨さ以上の犠牲者を新たに生み出すということに他ならない。勿論、それにはいろいろな理由がつくのだろうが、テロに関係ない大勢の一般人が犠牲になるのは間違いない。

ならば、一般人の犠牲者を出さないために、テロを行った者に何の鉄槌も下さないのかというと、これも大きな問題がある。今後、更なるテロを誘発する事になると思われるからだ。やはり、テロの抑止力を考えても、それ相応の罰は与える必要があるだろう。テロに関係したものだけを搾り出して、その者だけに罰を与えるというのはかなり困難を伴う作業になるだろうが。

さらにもうひとつ考えなければならないのは、本来、イスラエルが標的になるはずのテロが、どうしてアメリカに矛先が向ったかと言うことだ。そもそも中東問題でアメリカがあまりにもイスラエルよりのスタンスを取るので、アラブ世界の憎悪を一身に受けるような状態になっていた。このことが今回のテロの大きな要因になっている訳で、今回のテロだけを取り上げていては永久にテロ問題は解決しないだろう。勿論、今回のテロは許されざる暴挙だが、アメリカのイスラエルに対する偏ったスタンスを改めない限り、例えビンラディンを捕まえて処刑したとしても第２、第３のビンラディンが現れるのを防ぐ事は出来ないだろう。