ゴルフのない生活

先日より痛めていた左手首の回復が思わしくない上に、相変わらずゴルフを続けていたので次第に痛みが悪化してきた。そういう状態でも懲りずにゴルフを続けていたので、友人から一生ゴルフが出来なくなるぞと脅されたりしたが、それでもゴルフを休む決心をするのはそんなに簡単なことではなかった。そんな折、我ながら素晴らしいアイデアが浮かんできた。

実は１０年位前から、左手人差し指に小さなホクロがあるのに気づいていた。これは自覚症状もなく、そのままにして置いたのだが少しは気になっていた。と言うのは、医者なら常識と言っても良いが、手掌や足底のホクロは要注意なのだ。それは刺激を常に受けるので、一部は悪性黒色腫というガンになることがある。もちろん、悪性化の頻度はそれほど高くはないのだが、ゴルフの練習などで数多くのボールを打っているときに、結構気になる時がある。最近は気のせいか、どうも大きさに変化が現れてきたような気がしていた。これは要注意の兆候で、いずれ摘出する必要があるとは感じていた。

そこで今回、このホクロを手術で取ってしまえば、しばらくゴルフも出来なくなるし、ホクロが気になる事も解消できるので一石二鳥だと思い手術をしようと決心した。実はゴルフ仲間の皮膚科の医師からも、「気になるくらいなら手術をした方が良い」と言われていたので、早速彼に電話して、午後が休診になる水曜日に手術の予定を組んでもらった。しかし、なまじ予備知識があるので、この手術の痛みを考えると次第に逡巡する気持ちが湧き上がってきた。

と言うのは、この手術はキシロカインという局所麻酔薬を使って行うのだが、これは私も手術の際にはよく使う薬であり、これは指に使うとかなり痛いというのは知っていた。以前、足の指を怪我してキシロカインを使って切開したときも、注射された時は尋常じゃない痛さだった。しかし、今回は手首の故障を治す事とホクロの気になるのを解消するという２つのメリットがあるので、思い切ってやってしまおうと言う気持ちの方が強く、手術を受ける事にした。

そんな気持ちで、約束の時間に皮膚科の医院を尋ねると、既に用意が出来ていてすぐに手術になった。キシロカインはやはり痛く、思わず声を上げそうになったが次第に痺れてきて、手術自体は触っているのさえ分からない状態で１０分ほどで終わった。この後、２週間のゴルフ禁止期間を置くように指示されていて、今はその期間中というわけだ。こうして今まで想像さえしたことのないゴルフなしの生活が始まる事になった。

それにしてもゴルフを取り上げられると、これほど日常が退屈だとは思わなかった。日曜日のラウンドは言うに及ばず、平日でも時間が出来た時に、打ちっぱなしにでも行けば時間を忘れて過ごす事が出来るのにそれが出来ない。このような時はどのようにして時間を過ごすのが良いか分からなくなる。元々ショッピングであまり時間を潰せる性質ではないので、妻とデパートに行ってもすぐに買い物を済ませて帰りたくなる。レストランなどでの食事も待つくらいなら、立ち食いそばで済ませた方が良い性質なので、すぐに終わってしまう。

これがゴルフだと、練習場でああでもないこうでもないと試行錯誤しているうちに、直ぐに３時間くらいは過ぎ去ってしまう。それは本当に速いもので、まさに時間を忘れるという感じだ。誰でも嵌まり込んでいる趣味ではそうだろうが、このような気持ちは私の場合ゴルフ以外では味わえない。昔のイングランドでは、貴族が武術の鍛錬をほったらかしにしてゴルフに熱中するというので、法律で何度かゴルフ禁止令が出ているが貴族達のその気持ちは良く分かる。これを取り上げられているのだから、今の私にはかなり厳しい状態だというのが理解してもらえると思う。

イングランドの諺　　「ゴルフの唯一の欠点は面白すぎるという点だ」