人クローン胚

また生命倫理上の問題を投げかける事件が発生した。アメリカの研究所がSE細胞を作るために、人クローン胚を作成してしまったという報道だ。これ自体はSE細胞という再生医療や臓器移植のための細胞を作るための操作で、一般にはあまり騒ぐような問題ではないように思われるかもしれないが、理論的に言ってクローン人間を作る工程とほとんど区別をつけるのが困難だ。

今までES細胞を作る操作では、卵子の核を取り出して精子の核を入れ込むものだったのだが、このクローン胚の製造は精子の核の代わりに人の体細胞から取ってきた核を入れるという違いだけなので、このクローン胚を女性の子宮に入れて妊娠させてしまうと、そのままクローン人間が出来てしまう。SE細胞を作るときは、子宮に入れなくて、そのまま培養して数回の細胞分裂を進めることになる。

つまり、この作業工程はクローン人間を作る技術と大部分がオーバーラップしている。これを野放しに認めているとクローン人間を作る研究者が出てくるのはまず間違いない。早速アメリカのブッシュ大統領がこの遺伝子操作を非難する声明を出したが、それは当然のことで、世界中が同じ声明を出す必要があると思う。科学がいくら進んでも絶対に手をつけてはいけない領域というものがあるはずで、例えばこの生命の発生の時点での遺伝子操作や脳の改造はその最たるものだろう。

それは人間の発生やアイデンティティーに関わる問題であり、人間が勝手に他の人間を作ったり、人間の意識や思考回路を変えたりするのは技術的には可能でも踏み込んではならない領域だと思う。多分、これらの操作は技術的には既に可能かまたは近い将来に可能になる段階まで来ていると思う。世界的に罰則を規定した法律上の制約をかぶせないと、いずれ地球上のどこかでクローン人間誕生のニュースが報道されるのは間違いないだろう。

と言っても、医学の分野では、（善悪は別にして）大きなハードルを越えた業績として名を残す可能性のある行為なので、名誉欲に駆られた科学者の先走りを押さえつけるのはかなり難しいと思われる。技術的にさほど難しくないというのも、クローン人間誕生の危険性を増幅させている要因だろう。まだ、２１世紀になってまだ一年でこのような状態だから、２１世紀の間中、クローン人間発生の抑制をするのはどれだけ難しいか、逆にいえば、ちょっとした要因で直ぐにでもクローン人間が出来てしまいそうな危うい状況だと言えるだろう。

そしてクローン人間は一度出来てしまうと、あとは止めどもなく開発、生産が進められていくだろう。多分、次第に臓器移植用のクローン人間（肝臓や心臓などを拒否反応なしで取り出すために造られた人間！）が製造されるようになり、次は政界リーダーのクローン人間か？　このあたりになるとSF小説っぽくなるが、一例目が製造された後はまず間違いなく次々に、これらのクローン人間の製造が進んでいくと思われる。

それ故に、これは世界中でクローン人間の製造を禁止する条約を制定する必要があると思う。禁止条約を締結してない国があると、一番乗りという研究者が最も心踊る甘い蜜に目が眩んで、その国に渡ってクローン人間を作る可能性が出てくる。施設は簡単に出来るし、それほど難しい技術も必要ない。やはり、強い罰則を含んだ禁止条約が必要だろう。