医学部の寄付金

帝京大学医学部の入学に絡んでの寄付金疑惑が報じられている。禁止されている入学前の寄付金納入とその寄付金の使途不明や税の申告漏れに関する疑惑だ。医療関係者の間では、この大学は以前からこの手の疑惑が話題に上っていたが、やはり本当だったのかという感じだ。数年間で１５０億円にのぼる寄付金というから、尋常ではない手法で集めていたと思われる。受験生一人当たりで言うと、数百万円から一億円を越すケースまであったという。一般常識では考えられない額だ。

そもそも医学部の入学に際しては、これくらいの寄付金は当たり前とまでは言わなくても、それほど驚くべき額ではないと思われるかもしれないが、やはりこれは医者の世界でも異常な状態だろう。長年、診療に精を出していると一億の収入はそんなに大きな額ではないかも知れないが、そこから人件費や諸経費を引いた所得ということになると、一億円は大変な金額だ。しかも、所得のうち大部分は税金の支払いや生活費などに消えるから貯金などで一億を用意するのはほとんど無理だと思う。結局、銀行などから借りて払ったのだろうが、簡単に払える額ではない。

ここで帝京大のずる賢いところは入学前に寄付金の打診をしているところだ。親の気持ちとして、大学関係者からの寄付の依頼を断ると、決まりかかっている入学が反故になることを危惧して多少無理をしても払わざるを得ないだろう。もちろん、寄付の依頼を敢然と断って正々堂々と入学するものもなかには居るかもしれないが、それほど出来の良い子供ばかりではないだろうし、そもそもそれほど成績がよければ、初めからこれほど問題のある大学を志望する必要もないわけだし・・・・・。

しかし、親バカとは言え、こんな高額な寄付金を払うのはやはり異常だという認識は必要だろう。私なんかはこんな寄付金を用意できないので始めからこの類の誘いには乗らないが、資産がある程度あれば誘惑に勝つのは難しいかもしれない。冷静に考えれば、こんな寄付金や入学金を払って医学部に入っても、卒業して医師国家試験に合格するまでには幾つかバリアーがあるし、晴れて医師になっても今後の医療制度でそれまで投入した資金を回収できるほどに収益をあげられるかどうか疑わしい。 そもそも私立の医学部では入試の成績が悪い受験生ほど多額の寄付金を請求される傾向にあるから、多額の寄付金を払った医学生ほど卒業試験や国家試験で篩いにかけられて医師になれない可能性も高い。

一寸矛盾するようだが、そのことで思い出すのが高校時代の同級生H君だ。彼は医師の息子だったが勉強もあまりせず当然成績も芳しくなかった。我々が必死にテキストを捲っている時にものんびりした雰囲気で、高校生活をエンジョイしているようだった。高校卒業後のある日、大学入試に落ちた私は同じ境遇の友人達とボーリングに興じていた。その時、「おう、北尾君！　K大の医学部に合格したぞ！」と言う声で振り返ると、そこにはH君がいた。「嘘だろう、お前がどうして現役で通るんだよ！」と言ったら、「実は親父が５０００万円の寄付金を払って、入ることが出来たんだ！」とアッケラカンに言った。育ちが良いというか全然悪びれたところがなく、後ろめたい気持ちもないようだった（もちろん、このK大は私立です。国立では他の学部と同じで、卒業後に好意で母校に寄付することはあっても入学時の寄付金はありません）。

その彼は大学入学後、かなりハードに勉強したらしく、未だに父親の後を継がずに大学に残って研究生活を送っている。先は教授の道が開けているようだ。人間の将来なんて本当に分からないものだと思う。ただし、巨額の寄付金を積んで入学した医学生が皆こんな道を歩めば良いが、やはり卒業さえ出来ずに国家試験も受けられない学生がかなり多いようだ。いろいろな会合でそういう話を耳にするが、これなどは金と時間の膨大な無駄遣いで本当に勿体ない話だ。 帝京大医学部の問題はこの際徹底的に明らかにして防止策を採るべきだろう。教育を金儲けの道具に使っていたという面で罪は重い。