メルボルン事件

今話題になっている北朝鮮による日本人の拉致は、普通の生活をしている人が突然工作員によって連れ去られるということで人々の心理に不安や恐怖を巻き起こしているが、それとは違った意味で恐怖を感じさせられるのがこのメルボルン事件だ。私も最近ニュースで知ったばかりであり、この事件をあまり知らない人の方が多いと思われるので、簡単に事件の概要を述べてみたい。この事件は新聞で報道されることが少ないためじっくり読み込む資料がなく、以前テレビで見た記憶を元にして書き込んでいるので詳細は不正確なところがあるかもしれない。

旅行のためアジアを経由してオーストラリアに入国しようとした日本人の２家族が、麻薬持ち込み容疑でメルボルンの税関に足止めされそのまま逮捕、留置された。容疑はそのまま晴れずに、以来現在まで１０年以上オーストラリアの刑務所に留置され続けている。この事件で怖いと思ったのは、日本人なら誰でもこのような状況に遭遇する危険性があるということだ。それは英会話能力が低いことと外国旅行中の危機意識の低さがこの事件で決定的に不利に働いているが、それは日本人のほとんどについてそのまま当てはまる事だからだ。

この家族はオーストラリアに着く前に、経由地であるアジアの空港で旅行バッグが盗難に遭っている。それは後から出てきたのだが、ズタズタに切られており外国人の添乗員が荷物を別のバッグに詰め替えて、そのままオーストラリアに発った。その時点で、家族はバッグが不自然に重いのを感じていたが、中身を点検する事を怠っている。ここでチュックしていれば麻薬を発見できていた可能性が高いのだが、添乗員が詰め替えたものをわざわざチェックし直すということは、日本人の場合はあまりしないのではないだろうか。その後、この時の添乗員が麻薬密売組織の一員だということが判明して、国際手配されている。この時点で既に彼等の裁判は終わっていた。実際はこの添乗員が麻薬を詰め込んだ可能性が高いと思われている。

次にこのグループは英会話があまり出来なかったために、彼らと警察官の質疑応答を現地の通訳が仲介していたが、これが不運にも非常にお粗末だった。メルボルンの税関での取調べの様子がビデオに記録されているが、「弁護士をつけるかどうか」という警察の言葉が全く日本人側に伝わらなくて弁護士が同席しなかったり、「この旅行カバンに麻薬を詰め込んだのは貴方ですか」という重要な質問が正確に伝わらなくて、麻薬の持込を認めた形になったりで、相当いい加減な通訳や捜査だ。このような状況に置かれた時、英語で正確に警察の質問に答えられる日本人が果たしてどのくらいいるだろうか。

ビデオで見る限り、この２家族は全く普通の日本人で、どう見ても大量の麻薬持込を実行するような裏社会に通じた者には思えない。そんな事は日本人なら彼らの雰囲気である程度察しはつくのだが、如何せん場所がオーストラリアなのでそんな以心伝心は通用するはずもなく、通訳の不手際が影響して罪人として牢獄に繋がれる事態になった。このグループのうち３０代の女性などはこの環境に耐えられずに、４度も自殺を計っている。その心中は察するに余りある。やはり海外旅行の際は、日本人も危機意識や英会話は自分を守る手段として身につけておくことが重要だろう。

気になるのは大使館や日本政府の対応が鈍くて、日本国民を守ってみせるという気概にかけている点だ。既に裁判も終わって刑も確定しているので今更動きようがないと思っているのかも知れないが、大使館員なども積極的には動いてないようだ。こんないい加減な捜査や裁判を元にして外国の刑務所に留置されている日本人を、何の支援もせず今後もそのまま放置していて良いものだろうか？