嘔吐下痢症？

先週の木曜日に診察していたらどうも身体の調子がおかしい、疲労が異常に酷いのだ。これは今まで経験がないほどで、患者を一人診察したら一度休まないと次の診察に移れないほどの状態で、しかも吐き気も次第に出てきた。疲労と吐き気で診察するのが相当苦痛だ。これはどう考えても尋常ではなく、ひょっとしたらインフルエンザかなと疑った。今は下火だが、少し前までは大勢のインフルエンザの患者を診ていたし、患者から何時移っても不思議ではない状態ではあった。

しかし、体温を測定すると３７度しかないし、そもそもインフルエンザはワクチンを接種しているので感染の可能性は余りないはずだ。とするとこの症状は何なんだろうと思っていたら、吐き気がどんどん酷くなり診察中に患者の目の前で嘔吐する危険性もあるように思われるほどだった。「これは食中毒ではないか？」という疑念が頭を過ぎった。思い返してみると、前日の水曜日は半ドンなのでいつも昼食は街で麺類を食べるのが習慣になっている。普段は行きつけの蕎麦屋でゴボ天そばを注文するところだが、この日は海老天そばを食べたくなりそれを注文した。

その他の食事は家族と一緒だし、その家族はピンピンしているのでどうもこの海老天が怪しい。そこでその日の夕食後から、食中毒に有効な薬を数種類処方して飲み始めた。この日の夕食は一口も摂ることが出来ずに、そのまま寝室に上がって寝て朝まで熟睡した。それほど吐き気と疲労が酷かった。翌金曜日に目が醒めると前日の症状はそのままで、この調子ではその日の仕事は出来そうにもなかった。どうしようか散々思案したが、結局仕事に向った。これには私は開業以来１４年間、学会参加などを除いて一度も仕事を休んでないことが影響していると思う。

振り返ってみれば、これまで病気で休んだことは一度もなかった。と言っても、病気を押して無理をして仕事をしてきたということではなく、仕事を休むような病気をしなかったというのが本当のところだ。ただし、一度だけかなり危ない状況があった。あれはちょうど開業した年の年末のことで、確か１２月３０日、仕事納めの日だった。午前中から熱が出始めてその日は半ドンだったが、午前中の診療を終えた途端に高熱になり帰宅後に寝込んだ。そのまま３日間、正月まで寝込む事態になった。この時は発症がもう数時間早かったら仕事も休む事態になったと思う。その一度だけで、他には微熱が出るくらいで病気らしい病気もなかったと思う。それだけに今回の症状は相当堪えた。

と言う訳で、金曜日は診療を始めたのだったが、病気自体の疲労感と食事を摂れないのとで前日より辛かった。思い返すとこの日の午前中がもっともシビアだった。これは何時診察をやめて帰宅しようか迷いながら、根性だけでどうにか診察台にへばりついているような有り様で、何時倒れるかもしれない状態だった。辛うじて午前中の仕事を終えて、昼食を吐き気に苦しみながら胃の中にかきいれてそのまま疲労感に身を委ねて眠り込んだ。一時間ばかりして目が醒めると、睡眠のせいか薬が効いてきたのか分からないが、午前中の強い疲労感と嘔気は減っているようだった。それでも普段より辛い診療を終えて妻の迎えの車に乗って帰宅したら、急に空腹感を覚えて鍋料理をたらふく食べた。それからは徐々に回復して土曜日には日常生活にはほとんど問題のない状態まで戻った。

この話を内科医の友人にしたところ、これは嘔吐下痢症だろうということだった。現在、流行っているので診察した子供から感染した可能性が高いとのこと。食中毒と違って嘔吐下痢症の場合はウィルスが原因のことが多いが、処方される薬はほとんど同じなので（インフルエンザ以外はウィルスに効く薬はほとんどないのが実情）、私の場合にも薬が効いたのかもしれない。食中毒なら他の人にももう少し被害が出ているはずで、やはり私の場合は嘔吐下痢症と考えるほうが自然だと思われる。どちらにしろあんなに辛い状態での仕事は二度としたくないものだと、健康の有り難さが身に染みた二日間だった。