ダブルスタンダード

戦前の予想に反してイラク戦争は長期化しそうな状況だが、アメリカ国内では相変わらず戦争への支持率がかなり高いことが報道されている。ただし、それはあくまでアメリカ国内に限られるようで、世界中では反戦・反米運動が大規模に盛り上がっている。それはこの戦争にすんなりと納得し難い点があるのに加えて、アメリカ合衆国自体への拒否反応や嫌悪感がその根底に横たわっている気がする。

これはアメリカのダブルスタンダードが大きな影響を与えているのではないだろうか。今回もイラクの国民をフセインの圧制から解放するなどと言いながら、アメリカの軍需産業への配慮やイラクの石油利権の確保という本音が見え隠れしている。そもそもイラク国民のためを思っての戦争なら（これもちょっと理不尽だが）、湾岸戦争でも使って世界中から非難された劣化ウラン弾をまたしても使用したことは大きく矛盾している。イラクでは湾岸戦争時に使用された劣化ウラン弾によって、小児癌や白血病が大量に発生しているし大人でも癌の発生率がかなり高くなっている。

これはその悲惨な映像がマスコミによって報道されているが、アメリカはこの残酷な結果について少しは気にかけているのだろうか。最悪なのは、アメリカの首脳は劣化ウラン弾について、冷戦時からヨーロッパでは絶対に使わないと表明している点だ。これは人種差別そのもので、「ヨーロッパの白人についてはウランの被害が出るような事態は引き起こすつもりはないが、アラブ人ならウランの被害が出て小児癌などが大量発生しても良かろう」ということなのか。多分、アメリカ人は日本に原爆落としたことも、建前は別にしても本音ではそれ程気にしてはいないのだろう。

この劣化ウラン弾はその使用後の悲惨さからヨーロッパの国々も使用に反対している。結局、アメリカだけが使っていることになる。ブッシュやラムズフェルドはイラクが大量破壊兵器を保持しているので攻撃するべきだと言うが、それでは自分たちの使っている劣化ウラン弾やデージーカッターという大殺戮爆弾についてはどうなのか？　保持どころかイラクやアフガンで実戦において遠慮なしに使っているが、一体どんな神経をしているのだろうと思う。まったく勝手というか自分達に都合の良い理屈を世界に押し付ける国だと感心する。

アメリカはイスラエルに関してはイラクと対照的な対応をしていて、それがまたダブルスタンダードの典型例だ。今回のイラク攻撃のもっとも大きな根拠となっているイラクの国連安保理決議違反については、実はイスラエルが何十年も前から同じことを続けている。中東戦争で獲得したパレスチナの占有地を返還するように、国連安保理が決議しているのに何十年にもわたって無視し続けている。これに対して安保理が制裁を加えようとする時は必ずアメリカが反対して来た。それにイスラエルはイラク以上の大量破壊兵器を（多分、イラクの持ってない核兵器も）保持している可能性が高い。同じように国連決議に従わなかったイスラエルは強硬にかばって、イラクについては攻撃するべきだとの理屈はあまりにダブルスタンダードが過ぎるのではないだろうか？

これではアメリカがお気に入りの国は、国際法に違反してもアメリカから味方をしてもらえるのに対して、アメリカが煙たく思っている国は何かと難癖をつけられて攻撃されることが危惧される。湾岸戦争で日本が戦後処理のために拠出した巨額のマネーはお札に名前が書かれてないのを良いことに全額アメリカが分捕ってしまった（そのため湾岸戦争でアメリカは全戦費の１０％の負担で済んだ）。このようにアメリカがやりたい放題の国際社会は健全なものではないだろう。