偶然

世の中に信じられないような偶然を経験することがあるが、これなんかもその一つだろう。 学校医をしている関係で学校の卒業式やその謝恩会などに招待されることがある。今から５〜６年前の卒業謝恩会での話だ。

ある中学校の卒業式の終ったその夜にホテルで先生方とＰＴＡの役員を中心に宴席が設けられて、そこに招かれて出向いていった。 かなり大勢の父兄が出席していて一テーブル６人くらいの席になっていた。私は校長と同じテーブルで他にはいわゆるその地方の名士などが座っていた。年齢が離れていることもあって、ありきたりの挨拶が済むと後は他に会話も弾まず静かにしていた。

校長がその辺に気を使ったのか、私にしきりに話し掛けてきてそのうちに２人で話が弾むようになった。そして次第に校長に若い頃の恋愛の話になっていった。話は面白くてしばらく聞き入っていたが、内容はありきたりの失恋で結婚を誓い合っていたが親の反対で結局は別れたということだった。

ところが地名や人物の関連からこの相手の女性が私の良く知っている女性（かなりのおばちゃん）だと分かった。私が「ひょっとしてこの女性は〇〇さんではないですか？」と言ったときにこの校長は驚愕した表情を見せたがそれはそうだろう。そんな小さな村での話ではなく熊本市（人口６０万人）での話だから私もその偶然に驚いた。 よく世の中は狭いと言うがまさにそのとおりだと思う。こんな事もあるから周囲が知らない人だからと言ってあまり大ボラも吹けないと思う。

そしてこの女性と言うのが私の義母なのです（大丈夫かなあ、こんな事書いて）。

また、この校長は定年前でかなり年長だったがその年齢になっても失恋というのは心の奥底に残っているのだなとある種の感慨があった。男はいつまでもロマンチストの面を持っているのだろうか。

もう一つ不思議な偶然を経験したことがある。診察中にトイレに行くため中断する時に、後で見ようと思ってある人のカルテを探して出しておいてくれと言って診察台を離れたことがあった。そして戻ってくるとそのカルテがあったのでそれを開けて幾つか調べていたがどうも内容がおかしい。 あまりに検査データも違い過ぎるし所見もおかしい。しかし名前を確認しても間違いはない。〇村〇〇郎とそう頻繁にある名前でもない。

その時に看護婦が｢先生、その患者を入れて良いですか？」と言った。それで分かったのだがまだ私の頼んだカルテは出てなくて 同姓同名の別の患者が偶然、診察を受けに来院して診察の順番が来てそのカルテが机の上に置かれていたというわけだった。

これなんかは信じられないような偶然だったが、そんなに多い名前でもなかったので本当に驚いた。