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新型インフルエンザ

遂にというかやっぱりと言うべきか、ベトナムで人から人への鳥インフルエンザの感染者が出たようだ。これは非常に不気味な報道で、１９１８年に２０００万人～４０００万人の死者を出して世界中を恐怖に陥れたスペイン風邪の再来にも結びつく大事件だ。新型インフルエンザは今まで大流行に繋がる遺伝子的な大変異を３回起こしている。スペイン風邪、アジア風邪、ホンコン風邪だがその度に世界中で多くの犠牲者を出してきている。これは遺伝子的に人類が始めて変異ウィルスに遭遇するので免疫を持っておらず、無防備なままウィルスの一方的な攻撃を受けるからだ。しかもそのほとんどは鳥インフルエンザから人インフルエンザに変異してきたものだ。

ここでインフルエンザについてチョッと整理しておくと後の話が分りやすくなると思う。インフルエンザは鳥やブタに感染してそこから人に感染する段階では未知のウィルスでもそれほど怖いものではない。今回、ベトナムやタイで何人かの死者が出ていると報道されている。犠牲者もその程度の規模だし、これはほとんど鳥やブタと濃厚に接触する人に限られる。このような人は世界でも少数だし、この部分をブロックすれば容易にシャットアウトできるし直ぐに終息する。また今回の報道のように、人から人への感染が起こってもそれが鳥インフルエンザの形質で留まっている場合はそれほど人への感染は起こり易くはなく大流行になることもない。それほど心配する必要はないだろう。

ところがこれが感染者の体内で人の新型インフルエンザに変異した場合は状況はまるで変わってくる。これはあっという間に世界中の人間が感染する危険性が高くなるし、死者も数十万人から数千万人に一気に増えてくる。今回、ベトナムのケースが人の新型インフルエンザに変異すると世界中で３０億人が感染する危険性があり、数千万人の死者が出る予測までされている。これはなんと世界の人口の半分が感染するというスケールだ。これほど人類が免疫を持ってないインフルエンザが人に感染しやすいウィルスに変化するのは怖いことになる。これが頻繁に起こると人類は滅亡してしまうのではないかと思われるくらいだが、幸いなことにこの現象は今までに３回とそれほど起き易い変異ではないと思われる。

昨年、一人の感染者が日本を旅行したということで大騒ぎをしたＳＡＲＳだが、これなどは人の新型インフルエンザに比べると「へ」みたいなもので、私はその時もこの欄でそんなに大騒ぎをするべきでないと苦言を呈したことがあった。ところが今回の新型インフルエンザはこれこそ大騒ぎをしなければならない大事件で、ＳＡＲＳとは深刻さに於いて比べ物にならない病気だということを認識するべきだろう。しかもＡＩＤＳなどとは違って危険な行為をしなければ大丈夫というものでもない。一旦流行しだすと、呼吸をしている限り常に感染の危険性はある。

これほど医学が進歩した現代でどうして人類はこれほどインフルエンザに対して弱いのかと言うと、その原因はまず第一にインフルエンザの免疫学的な特性によると思う。つまり免疫防御システムが外敵を攻撃する際の一番の目印である表層の抗原を頻繁に変化させることにあると思う。これはエイズでもそうだが、ここを変えると人間でいえば顔を変えるようなものだから免疫組織は別のウィルスと考えることになる。と言うことは、人類が数十万年かけて築き上げてきた最新鋭のウィルス攻撃用ミサイルを使えないことになる。尤もまったく武器がないのかと言えばそうでもなくて、インターフェロンのように「どうもウィルスの侵入があったようなので、どんな奴か分らないが一応攻撃しておこう」というような特異性の低い武器は幾つかあるにはある。しかしこれだけではインフルエンザウィルスのような強敵には対処できない。結局、大勢の人にある程度免疫が出来上がるまでは人間はウィルスにボコボコにされることになる。

テレビなどではワクチンは６ヶ月で一般に使えるようになるとのコメントを発する研究者が居るが、これは疑問だと思う。ワクチンの開発は３ヶ月程度でできるかも知れないが、その前にウィルスの弱毒化を行なわないと危なくて研究どころではない。これには数ヶ月かかるだろう。またワクチンが完成した後も人体へ投与した場合の安全確認試験が最低半年はかかるのではないだろうか。これらを考慮するとどう考えても最低１年は必要だろう。下手をすると２～３年かかるかも知れない。

と言うことは、今回の報道を耳にして我々は無力感に浸るしかないのだろうか。一概にそうばかりは言えないと思う。まず月並みだがウィルス（人ごみ）を出来るだけ避ける。免疫力（体力）をつける。ウガイ、マスク。それでも感染した場合は現在使っているインフルエンザ用の薬が一定の効果ありと言われている。ただし、新型インフルエンザが流行している時に病院にいくのは「飛んで火に入る夏の虫」で自殺行為に等しいし、それより何より医師（当然、このウィルスの免疫は持ってない）のほうが逃げ出すかも知れない。やはり人から人へ感染者を出し始めた鳥インフルエンザ・ウィルスが人インフルエンザへ変異しないように祈ることしかできないのかも知れない。