演出家のセクハラ

名演出家の和田勉氏（７３）が女子大生にセクハラで訴えられた裁判で、東京地裁から２００万円の賠償を命じられたことが報道された。昨年、女子大で講演をおこなって、その後の懇親会でその大学の学生とホテルの１室で 性的行為に及んだとのことだ。この事実関係は双方認めていて問題はそれが合意の下かどうかということを争っていたのだが、裁判では女子学生の自由意志の元に行われた行為だとは認定されなかったようだ。テレビで和田氏は「女子学生が逃げ出すチャンスは幾らでもあったのに、私についてホテルの部屋まで入ったのは合意の下だという証拠」と主張していた。確かに普通だと子供でもない学生が腕ずくでもなく男とホテルの１室に入っているのは和田氏の意見に分があるように思われる。

ただし今回の裁判で和田氏が負けたのにはそれ相応の理由があるようだ。一つには懇親会の場で和田氏が機嫌を損ねて帰ると言い出したのに対して、招待側の教授が気を使って件の女子学生に和田氏の機嫌を直す接待役を命じていた。和田氏のアプローチが嫌だとしてもおいそれとは無下に 跳ねつけることが出来る状態ではなかったのだ。またこの女子学生は卒業後はマスコミ関係の就職を希望していて、その業界で絶大な力を誇示している和田氏に対して ある種の圧迫感を感じていたと言う。この２点から裁判所は女子学生の訴えを認めたもののようだ。

いくら接待が教授の指示だからと言って、そのまま部屋に入っていくのは大人として疑問を感じないこともない。しかしこの女性の立場では和田氏に対してかなりのプレッシャー を感じていたのは間違いないだろう。和田氏の言うように彼女がまったく自由に自分の態度を決めることが出来る状態ではなかったのだ。また 後で謝罪を求めた彼女に対して、和田氏が侮辱的なコメントを発した事も裁判官により糾弾されたようだ。

和田氏は控訴したようだが、これまでの経過を追っているとどう見ても和田氏に問題がありそうだ。 法的な問題は裁判官が決定するしかないが、道義的社会的な面では相当な問題ありと言わざるを得ない。そもそも大学から招待されて講演に行った先の学生といきなりそのような関係になろうと 目論むこと自体が 彼のような立場の人間として異常なことではないだろうか？　普通の人間ならこんなことは考えないだろうし、万が一そんなことが頭に浮かんだにしろそれを女子学生に強要することは やはり常識外れだ。彼くらいの大物プロデューサーになると周囲が気を利かして、今までいろいろお膳立てをしてその甘い汁を吸っていたのかも知れない。 テレビで釈明していたあの厚顔さには男の私ですら嫌悪感を感じたほどだ。

それにしても　日頃テレビのコメンテーターとして立派な意見を披露していた和田勉氏がこんな常識はずれの行動を取るとは すぐには信じられない話だった。裁判の結果が最終的にどうなろうとも、社会的にはまともな人間とは思えない。すくなくとも今後大学などで講演活動する資格はないと言わざるを得ない。やはりテレビなどで見せる識者の側面はあくまで一面であって、表面的にはどんなに立派であっても奥にはダークな面も隠し持っている人物も多いのかも知れない。我々はどうしてもイメージで人物を判断してしまう傾向があるが、今回の件を通じて人物を判断する際には その本質を見るように留意しなければならないと 今更ながら感じた次第であった。