ドーピング考

アテネ・オリンピック陸上競技ハンマー投げで金メダルを獲得したアヌシュ選手が、ドーピング違反でメダルを剥奪され日本の室伏選手が繰上げで金メダルを獲得することになった。日本人男子がオリンピックの陸上競技でゴールドメダリストになったのは６０年以上前というから 、これは今回柔道やレスリングで金メダルを量産したのとは重みが一味違うと思う。それにしてもアヌシュ選手のドーピングさえなければ、室伏選手はもっと気持ちよく表彰台で金メダルを授与することが出来たのにと 忸怩たるものもある。 アヌシュの記録を見てみると４年前まで三流選手だったのにドーピングを始めたと思われる３年前から急速に成績が伸びて国際大会で連続して優勝を続けている。

アヌシュ選手については室伏選手が挙動がおかしいということに気付きＪＯＣに訴えて、そこからオリンピック委員会が再調査を指示した経過がある。以前からアヌシュ選手についてはかなり噂にはなっていたらしく、この日も頻繁にトイレに行くのが目撃されている。そこで（名前 のせいではあるまいが）アヌスに他人の尿を入れたゴム球を押し込んでそのままドーピング検査を受けて採尿したらしい。いわゆる尿のすり替えだが、本来ドーピング検査の際には 、係員が必ず性器から尿が出ているのを確認しなければならないと決まっているので、これは係員の怠慢だろう。肛門からチンポコまでチューブが引かれているのを見過ごしているのだ。

ただしこんな単純な方法ではなく、一度排尿して その後に他人の尿をカニューレを通して自分の膀胱に注入するとこれはもう外見からはまったく判らない。尿のＤＮＡをチェックするしかない。また利尿剤で薬物使用の痕跡を消すことも可能だ。このように尿だけのドーピング検査には限界があるので最終的には血液検査を併用する必要があるだろう。血液なら検査官が本人の静脈から明視下に採血するし、利尿剤などによる禁止薬物の覆い隠しも実行しにくい。ただし、蛋白同化ステロイドなどは尿のほうが検出しやすいこともある。

今回の場合はハンガリーの円盤投げのゴールドメダリストがドーピング違反で摘発されて、彼と同じヨーゼフコーチに指導されていたアヌシュ選手が一度はパスした競技後の検査を再度求められている。そしてその検査を拒否したことでメダル剥奪となった。今度係官の面前で自分の尿を出したら、確実に引っかかると危惧しての採尿拒否なんだろう。プライドがどうとか家族が精神的におかしくなっているとか言い訳せずに、尿さえ７５ｍｌ出せばあっさりと解決する話だ。これは１００％使っていると言うことだろう（ ちなみに昨日、記者会見した植草元早大教授の場合はのぞきをやった可能性は９８％くらいだろうか・・・・）。

アメリカのアスリートを対象としたアンケート調査で、「ある薬を使えば確実に金メダルを取れるようになる、しかしその代わり５年後には副作用で死んでしまうような禁止薬物があったとしたら貴方はそれを使いますか」との問いに、半数以上が「使う」と答えたのこと。それほどドーピングに対する誘惑は強いものなのだ。金メダルで人生がまるで変わってくる状況があるなら、その誘惑に打ち勝つのはそう簡単ではないだろう。考えてみれば私の場合でも「この薬を使えばドライバーショットが３００ヤード以上飛ぶようになる、しかし寿命は１〜２年は縮むことになる」と言われたら 少々考え込んでしまうと思う。もちろん５年の命と言われれば乗ることはないが、私の場合ゴルフは単なる趣味にすぎない。これが全精力をかけているスポーツでしかもその成績が人生を左右するほどのものなら、悪魔の誘惑でもなかなか拒絶は出来ないだろう。

ただし、ドーピングはそれを使ってない選手との公平さを著しく欠くし、副作用も致命的な危険性がある。以前の東ドイツのスポーツ選手がステロイドのせいで女性でも筋骨隆々の体躯 で多くの金メダル獲得を誇っていたが、彼ら彼女らは死亡したり現在でも重篤な副作用に悩まされている。アメリカの陸上のスターであったジョイナーもステロイド使用がばれそうになって、絶頂期に涙をのんで引退した。それで一応ドーピングで追及されることは回避できたが、結局若くしてステロイドの副作用と思われる心臓疾患で死亡した。当時、東欧圏では国家ぐるみで計画的にドーピングを遂行していたが、それらの国自体が崩壊してその計画に携わっていた医師や研究者は世界に散らばった。彼らが現在のスポーツ界に蔓延ってドーピングをリードしている。

今後は遺伝子ドーピングが問題になってくるのは間違いない。これは筋肉量が今までの人間の２倍にすることも可能で人体のサイボーグ化といった面があり、こうなると何のためのスポーツか訳が判らなくなってくる。 こんな麻薬的な魅力と危険性をはらんだ薬物である以上、それを選手やコーチの良心に任せておいて済む話ではなく、使用すれば必ず見つけ出して厳正な処分をするという以外にこのドーピングを防ぐ方法はない。その意味でも今回のハンガリーの 二選手の金メダル剥奪は重要で意義のある処分だったと思う。