西部帝国

西部の堤義明会長が西武鉄道株に関する不祥事で、西部グループ総ての経営の一線から退くことになった。これは当然で、堤会長自らが相当あくどい詐欺的行為をしていたことが次第に判明してきている。今分かっている概要は以下のごとくだ。堤 会長のワンマン会社である「コクド｣が西武鉄道の株式をこの数十年の間５０％を超えて持ち続けていて 、上位１０社の株保有割合は８８％を超えていた。これが原因で西武鉄道は株式上場廃止の処分を受けそうになったので慌てて 大手企業２６社に手持ちの株券を売りまくった。この時、堤会長自らが取引のある会社に売りこみ、８０万株を売り抜けた段階で記者会見で事の次第を明らかにした。当然西部株は １１００円から５００円へと急落した。株券を買った各社はあっという間に数十億円の損害を被ることになり、中には告訴するという会社まで出る始末だ。

これはインサイダー取引に当たるのだが、それだけでなく非常に悪質な要素を含んでいる事件だ。堤氏が総てを知ってて法律を犯しているし、売る際にも日ごろ西部関連の会社に世話になっていて株の買いを断りにくい会社に株価が急落する可能性を説明しないで大量に売っている。これはインサイダー＋詐欺と言っても良いような事件で、いずれある程度は司直の手が入ると思われる。問題はこんな酷い男が今までＪＯＣの 会長や経済界の重鎮として活動してきたという事実だ。しかもコクドが西部の株式を公表を超えて持っていることや西武鉄道が適正な税金を払ってないことなど多くの財界人が知っていたことで、どうして今までそんな会社のオーナーが社会で尊敬される地位に 存在しえたのかということが大問題だ。

ここに日本の大きな病理があると思う。結局、ある程度悪いことをしていても「長い物にはまかれろ」とか「清濁併せ呑まなければ・・・・」という風に、東洋的と言えばそうなのだろうが社会全般に悪事を容認する雰囲気がある。公正とかフェアとかの概念はそれ程強くは求められない。堤 氏ほどの力を持つと政財界の大物もみんな揃って米つきバッタのように崇め奉る。それ程日本の社会の成熟度が低いということだろうが、情けないことではある。

西武鉄道の「企業倫理委員会」には社会で輝かしい実績を上げた弁護士や教授が社外委員として入っていたが彼等は何の役にも立っていなかった。それどころか委員のうち一人はこの事件に関与していて辞任に追い込まれた。結局、堤会長の札束でほうべたを張り倒されていたのだろうか。また東証上場会社２２００社のうち株式事務を代行会社に委託しないで、社内で行っていたのは西武鉄道とその関連会社だけだったという。これは違法行為を隠蔽するために敢えて外部のチェックを入れないようにしたとしか考えられない。全く一流企業とは名ばかりのワンマン企業に過ぎない。

そんな折、昨日ダイエーの再建に辣腕を振るっていた高塚社長がセクハラで逮捕されたニュースが報道された。これは三大新聞初めいろいろなマスコミでもかなり悪質だと非難されているが、私はこの報道もどうかと思う。勿論、高塚氏のやったことはとても軽蔑することだし企業のトップがやるようなことではないが、社会に対する悪質さでは西部株騒動とは鯨とノミくらいの差がある事件だと思う。それを高塚氏のほうだけを大きな紙面を割いて非難している。例えは適切ではないが、西部株の事件は堤氏の札束によって日本の社会全体（特に財界のトップ）がセクハラを受けているような状態ではないだろうか。どう考えても堤 氏のほうが数千倍悪質な犯罪の筈なのに、日本のマスコミはなにを考えているのだろう。

今回の西部株関連の事件がどのように解決するかが日本社会を判定するリトマス試験紙になると思うが、今の状況では期待するような解決にはなりそうもない。堤氏の経営からの退陣だけで良しとするような最悪の結末だけは見たくないが・・・・・。