裸の王様

西部の堤義明オーナーが逮捕された。これまで西部グループ内では他に類を見ないほどの強固な独裁体制をとって傍若無人の振る舞いをしてきて、外部においてもＪＯＣやスキー連盟会長などを務め、政財界でも大きな権限を行使してきた。ポスト中曽根の総理大臣選びの際の暗躍なども よく知られていた。しかしこの人物には以前から黒いうわさが絶えず付きまとっていた。

曰く「世界有数の資産家にもかかわらず税金をほとんど払ってない」、「西部グループの資産や人材の私物化や公私混同が甚だしい」など評判はかなり悪いのだが、どういう訳か彼が日本の財界やスポーツ界で頂点に立っていることには誰も異議を唱えなかった。愛人を伴ってプリンスホテルのレストランで食事をした際に、女性の嫌いな食材が出たとしてコック長を首にしたり、長男の食事に大人用のビフテキを出したことで烈火のごとく怒って関係者を辞めさせたりで傍若無人の限りを尽くして いた。自宅や愛人宅もすべて西部グループの物件を私物化して使っていた。今時、北朝鮮の独裁者でもこれほどの暴挙をしないのではないかと思うほどだが、みんながそれを許してきた。

彼は裸の王様だったと言う人が多いし、実際彼が部下に送迎される時を見るとまさにそのような感じを受ける。大勢の社員を整列させて直立不動の姿勢から腰を９０度に折ってお辞儀をさせている様は滑稽でさえある。しかしこれは彼自身が そのシステムを作り上げて部下に強いてきた結果であり独裁者の特徴だ。世界一の金持ちにも挙げられたほどの資産を持ちながらそれらをほとんど会社名義にして、その資産を私物のように使うという手法である。どこまでが自分の資産でどこからが会社のものかは自分でも判断できなかったのかもしれない が、その必要もなかったのだろう。ほとんど自分だけで私物化して占有してきたわけだから。

父親からの巨額の相続資産も学校法人に寄贈した形をとり、ほとんど相続税を払ってない。こんなことは許されるはずもないのにどういう訳か国税はまったく触手を動かしてないし、検察もどうしてこれほどの巨悪を放置してきたのか頭を捻りたくなる ほどのアンタッチャブル状態だった。結局日本中が政界の中枢との結びつきも強い彼を怖がって、手を出せなかったと言うのが実情だろう。まったく情けない話だ。

以前にもこのコラムで記述したが、彼のような恫喝だけが取り柄の人間に財界やスポーツ界がリードされてきたことを考えると、日本はなんと底の浅い国なんだろうと思わざるを得ない。それは今までその状態を放置してきたジャーナリズムの皮相さもそうだし、彼によって 影響され続けてきた政界もやはり三流だと言わざるを得ない。