記憶喪失？

政治の世界は一般社会の常識からかけ離れていて分かりにくいものだが、今回の日本歯科医師連盟ヤミ献金の件は今までのどの事件より政治家の裏の世界を垣間見せる格好の材料になったようだ。日歯連からの一億円の献金の処理について、政界の大物と目されていた 複数の人物と日歯連の元会長との証言が根本的に食い違っていて、裁判での経過が非常に面白い。

登場人物は自民党最大派閥の会長だった橋本元総理、青木参議院会長、野中広務元自民党幹事長、村岡兼造元官房長官、日歯連元会長の５人に派閥の元会計責任者だ。この６人の証言は 相当興味深い。ただ一寸気を付けなければならないことがあり、これだけ日本政界の大物政治家が皆さんどうした訳か記憶喪失気味で、特に大事な点については記憶がなくなっていることだ。 ただし彼等５人の虚偽証言にもかかわらず、会計責任者がほとんど白状しているので事件の大枠は大体解明されている。

まず１億円という一般的に言えば驚くような金額の寄付にもかかわらず、ほとんどの者が記憶にないというこの不思議さには驚かされる。それはこれまで何度もあった疑獄事件における政治家の態度とまったく同じもので、この底知れぬ汚染の酷さは救いようがない。この数名の政治家たちはこれまで自民党最大派閥の大物として日本の政治を牛耳ってきたし、テレビなどではさも自分達だけが正しいと 他の政治家達（特に小泉首相）を批判して来た者達だ。

後から考えると、 橋本元首相はこの件がきっかけで政界の引退に追い込まれる形になったが、仮にも以前は首相を務めた政治家がこんな子供だましの手法で言い逃れをするとは恥ずかしくないのだろうか。　それにもまして恥知らずは野中元事務総長だろう。他のものたちの証言から彼がこの事件に深く関わっているのは間違いない し、裁判長でさえそのことに言及しているのに全く覚えがないと完全否定でこの場を逃れようとしている。自分が権力を持っていた時は 小泉首相支持にまわった村岡元長官のことを「あいつは毒饅頭を食べた｣と酷く批判していたが、現役時代の大言壮語はいったいどうしたのだろうかと 訝るばかりだ。本当に恥ずかしい人間だ。

野中氏の場合は小泉首相の悪政に抗議する形で唐突に引退したが、今思えばこの件が表面化する前にカッコつけて引退したかったのだろう。しかしここまで事件が白日の下に晒されるとあの引退も逆効果で 、むしろ自分の行為の後ろめたさを強調する形になっている。それは橋本元総理にしても同じで、やけにあっさりと引退したものだと思っていたが、真相が暴かれた現在ではこれも引退が逆効果になっている。 結局、今となっては１億円が日歯連より渡ったのは否定しようがないので、お互いに罪の擦り合いに必死になっている 状態だ。こんな低レベルの政治家に牛耳られていた日本政界とはなんと情けなくまた底の浅い組織だったのだろう。