耐震データ偽造

今巷ではマンションの強度検査において耐震データの偽造があったとして、日本中がひっくり返るような大騒動になっている。それも当然で、我々の生命の安全と財産の大きな部分を占めているマイホームが根幹から揺れ動いているのだ。これらのマンションを提供した関係者の責任は 際限なく大きいと言わざるを得ない。

ただ最近の報道を見ていて、どうも首を傾げたくなるようなことが多い。販売元のヒューザーの社長がそのエキセントリックなキャラクターの関係かどうか分からないが、圧倒的にバッシングの的になっている。偽造の張本人である構造 計算担当の姉歯設計士は頼りなげで叩きがいがないのか 知れないし （まさか一目ですぐ分かるズラに同情しているわけではないだろうが)、検査会社のイーホームズは偽造見逃しをそれほど反省もしていないのに非難も少ない。ましてや最も問題がありそうな木村建設は社長からして雲隠れで叩きようがない状態。

しかしここでこの問題の全体を眺めてみるとどうだろうか？　これは販売元のヒューザーがマンション販売の計画を立てて、それを姉歯一級建築士に 構造計算してもらい規格に合った設計図を作成する。その後イーホームズに検査してもらい建築確認を取って施行するという図式だ。これだけを見るとヒューザーがこれ程非難される理由は どうも希薄だということになる。

ただしマンションは販売元が瑕疵担保責任といって買主に対して全責任を負うことになっているし、検査会社などにプレッシャーをかけていたということも言われていてそれらの責任はあると思う。しかしそもそも構造 設計や建築確認といったものは建築物の安全性の大元だし、それは素人には検査出来ないので専門の機関や設計士が設けられている のだし、また廉くはない料金を取って検査しているのだ。そこが見逃したり偽造すると専門知識のない販売元はどうしようもないのではないだろうか。

ヒューザーの小嶋社長は軽はずみな言動で買主の信頼を損ねた面はあるにしても責任は民法の範囲内のものであり、刑法的にその責任を問われるのはどう見ても設計士とイーホームズなどの検査会社であるはずだ。 マスコミも叩き易い所を叩くというのではなく、本質を見て責任のあるところを追及するといった姿勢でないと、今回の報道全体が単なる欲求不満の捌け口になってしまう恐れがある。

昨日は国会で参考人招致が行われたが、私なりにその中である程度判ってきたことがある。それはこの事件全体のことだが、どうやら木村建設が経済設計を目指すあまり過度なコストダウンを姉歯建築士に強いて、そこから今回の耐震データ偽造が生じてきたという構図だ。この木村建設は過度のコストダウンの指示が法を犯すことを認識しながら姉歯建築士に鉄筋を抜かさせ、事件が発覚するや計画倒産を図った形跡が窺われる。

この件を発端に姉歯建築士は他の施工会社でも偽造をするようになったのではないだろうか。木村建設が今回の偽造事件の発生源になっている可能性がある。　とすればヒューザーの小嶋社長は被害者で、国会でもあれほど声を荒げて怒っていたのには彼なりに根拠があるのではないだろうか？　ただしこの複雑な事件の全貌が明らかになるのには、第二第三の参考人招致や証人喚問などを含めてもうしばらく事件の推移を見守る必要があるだろう。