晩節を汚す

普段数多くのニュースを見聞きするが、それでもこれほど訳の分からない事件は珍しいだろう。それは北朝鮮事情に詳しい者や司法関係の評論家も揃って首を傾げるほどだ。どうして公安調査庁のトップを務めた人間が、 法を犯してまで本来なら敵であるはずの朝鮮総連の肩を持つようなことをするのか？　しかも彼は検察のほうでも 中枢に居た人間だ。こんな犯罪行為をすれば白日の下に晒されて 責任を追及されるのは火を見るより明らかのはずだ。この事件の真相究明は相当時間と手間がかかるだろうと予想された。

ところがここへ来て事態が大分鮮明になってきた。緒方元長官が逮捕されて以来、さまざまな報道がされているが、この事件は思いもしない方向へ進んできている。それはこの事件の実態は緒方元長官が朝鮮総連から会館 とその土地を詐取しようとした詐欺事件だったということだ。意外にもこの難解を極めると思われた事件は金に困った元長官がおこした平凡な詐欺事件だった可能性が高くなってきた。

彼は一緒に逮捕された満井容疑者とのつき合いのなかで数億円に上る負債を抱えていたようだ。その借金のために今回の詐欺を働いた可能性が高い。満井容疑者や河江容疑者と口裏あわせもしていたようだ。ただしその手口は単純で、強制捜査が入ればすぐに暴かれるようなことは元長官なら分かりきっていたように思うが その点がこの人間の甘いところか。

大物政治家を中心にした政治関連の事件だと深読みする評論家などもまだ居るようだが、万が一そうだとしてもこの緒方容疑者の詐欺行為そのものはなんら変わりようがない。 緒方容疑者ほどの功成り名を遂げた人物が「晩節を汚す」を絵に描いたような愚かな行為だが、金に窮するとどんな人間でも考えられないような愚行をしでかしてしまうということだろうか。

彼の場合は検察の上層部にも在籍していたわけで、この事件をおこすような犯罪者とは対極に居た人間だったはずだ。そんな人間でも今回のようなことが起こるわけで、「君子豹変す」の 典型だろうか （もっともこの諺は一般に使われているようなネガティブな意味ではなく、「優れた人は自分の過ちを認めれば素直に素早くそれを直す」という良い内容が本来の意味のようだが）。 この事件が司法関係者による犯罪において、これまでしっかりしていた箍（たが）を外す発端にならなければ良いが・・・・・・。