怖い旅館

月曜日の朝、祝日だったがゴルフの予定も入ってなくて、久しぶりに午前中から居間でくつろいでいた。テレビをつけるとワイドショーで「二度と泊まりたくないほど酷い温泉宿 」の特集をやっていた。そこで紹介されていた旅館はどれも相当なもので、思わず笑い転げて見た。世の中には本当に酷い旅館もあるもんだなと感心したが、考えてみると私もそのような旅館に泊まった経験があった。

それは平成９年の正月のことだった。家族で別府に行こうということになり幾つか旅館を探したが、季節は秋だったこともあり良い旅館は既に予約が詰まっていて適当な旅館はなかなか見つからなかった。そこで日頃何かと世話になっている顔の広い知人に頼み込んでどうにか２部屋を確保した。妻などは既にいろいろな計画を立てていたので中止にするわけにもいかず 、宿が決まってほっとしたものだった。

この時は妻の両親と我が家で総勢７人の旅行だった。旅館に着いてリラックスしていると妻が旅館について幾つか不満を述べていて、遂にはフロントに電話したほどだった。その内容は今では二人ともはっきり 記憶してないが、旅館の従業員の客に対する対応はまったくなってなかった。妻は普段このようなクレームを付けることはほとんどないので相当酷かったと思われる。

私自身が感じたものは２つほどあり、１つはタオルに関しての話だ。その旅館では各部屋に人数分のタオルが置かれていて、それで洗面から風呂で使うものまで各自一枚で済ませなければらなかった（風呂場にはタオルは一枚もなかった）。それはまだ良いとしてもこのタオルが宿泊の間中換えられず一枚を使い続けなければならなかった。

これは流石にフロントにクレームつけて毎日換えるようにさせたが、その時も「うるさい客だなぁ」という表情を浮かべてスミマセンの一言もなかった。その時までに旅館の対応は相当問題があるのは判っていたので、この旅行を楽しみたいと思って事を荒立てることもしなかった。ところがその夜にひっくり返るような驚愕の事態が 我々を待っていた。

食事を済ませた後、そのころ小学校低学年の娘を連れて大浴場に行ったのだが、そこには既に１０人くらいの先客が居た。始めは湯気で彼らの風体までは分からなかったが、目が慣れてくると次第に彼らの様子が分かるようになって来た。 そこではなんと彼等は全身に刺青を入れた集団だった。大浴場の半分くらいは刺青だらけの集団が占めているのだから、温泉でくつろぐなんて気分にもならずに娘と早々に引き上げた。これは酷すぎるとフロントに抗議したが、その時のスタッフの対応は「そんな事を言われても 服の上からは誰が刺青をいれているのか分からないし・・・・・」というフザケタものだった。

その旅館には○○○ちゃん（福岡出身の全国的に有名な女子柔道家、ママでも金！）の写真やグッズが数多く展示されていたり販売されていたし、頻繁に合宿でこの旅館を使っているとの事だった。後で聞いた話では、地元では彼女の 実家はそちらの系統と繋がりがあるのは有名だそうで、あの刺青の集団もその関係者だったのかもしれない。

結局、予約が遅くなったせいで地元では誰も利用しないような怪しげな旅館に、何も知らない我々が飛び込んでしまったのだろう。おかげで１０年経っても忘れられないような記憶に残る家族旅行になったが、こんな旅はもう二度と経験したくないものだ。