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エイズ発見の内幕

先に「ノーベル賞と詐欺師｣で紹介したロバート･ギャロの科学者らしからぬ言動を記載していくうちに次第に興味がわいてきて、彼のダーティな行為を告発したジョン･クルードソンの著作「エイズ疑惑｣をアマゾンから取り寄せて読んでみた。これがなければギャロはノーベル賞を獲得していたかも知れないと言われるほど影響力のあった本だ。この本を読んで感じるのはギャロの徹底した自己宣伝と自己保身のストーリーだ。これ程他人を攻撃したり悪意に満ちた嘘をつきまくる科学者がこの世に居るのが信じられない。またそんな彼がアメリカではいまだにアメリカ医学会で重鎮として遇されているのもすっきりしない。

ギャロは同僚の研究者やアメリカ国内の研究者、はたまたフランスのライバル達に対してありとあらゆる手段を取りながら恫喝し黙らせたり、また自分の発見したウィルスをエイズウィルスだとごり押しすることに全精力を注ぎ込んだ。彼の犠牲になった研究者は数知れない。

レトロウィルス（遺伝情報がＲＮＡで書かれているウィルス、エイズウィルスもその中に入る）については世界的権威だったギャロは自分が発見したとしているＨＴＬＶというヒトに白血病を発症させるレトロウィルスがエイズのウィルスだと思い込んでいて、フランスのモンタニエなどがいくら素晴らしい実験結果とともにＬＡＶ（今回ノーベル賞を受賞したモンタニエとフランソワーズ･バレーが発見したエイズウィルス）がエイズの原因ウィルスだと発表し論文を書いても強硬に否定し続けた。

実際にはこのＨＴＬＶも日沼頼夫が発見し成人Ｔ細胞白血病（ＡＴＬ)との関係を明らかにしたウィルス（ＡＴＬＶ）と同じもので、この分野の権威であるロビン・ワイスの言うように日沼こそこのウィルスの発見者の栄誉に値する人間なのだ。ところがギャロはこのウィルスに関して実際に功績のあった日沼など日本勢と同じくかなり貢献度が高かったオランダグループを排除して総て自分の功績とした。これにはギャロを医学会の国民的英雄と持ち上げていたアメリカの思惑も関係している。

実は日沼頼夫は当時熊本大学の教授であり、私たちもウィルス学はこの教授に講義を受けたのだった。当時あまり勤勉な学生ではなかった私もこの日沼教授の講義は面白くてほとんど欠席せずに講義を受けた。また私が学生の時からウィルスが原因の癌として話題になっていた成人Ｔ細胞白血病は、当時頻繁に顔を合わせていた第二内科高月教授が発見した病気であった。彼等もギャロの被害を大きく受けた研究者だ。

ギャロは自分の生命線であるＨＴＬＶにとって都合の悪い論文や学会発表が出そうになると全力でそれを阻害しようとした。モンタニエがＬＡＶについて重要な発表する時は、議長である自分の地位を最大限に利用してモンタニエの番を最後に設定し、その前に初めは予定されていなかった無関係の研究者２人を差し挟んでモンタニエが最小の発表時間しか持てないようにした。またフランスのＬＡＶがエイズウィルスである可能性が高いことを示唆する研究の論文が出そうになる時は、親切めかしてレトロウィルスの権威である自分が原稿をチェックしてあげると言って最も大事な部分（ＬＡＶがエイズウィルスである)の結論を無断で書き換えて雑誌サイエンスに投稿するようなことまでやった。

ありとあらゆる汚い方法を用いてＬＡＶを葬り去ってＨＴＬＶをエイズウィルスにしようとしたが、ＨＴＬＶはエイズとは無関係だとの証拠が山のように出てきた。これに危機感を持った彼はどこからかＨＴＬＶ－３を引っぱり出してきて、これは間違いなくエイズの原因ウィルスだと主張しだした。結局、これも内外の研究者によりＬＡＶと遺伝的に全く同じものだということが判明したが、それでもパクッたのではなく実験室での混入を言い張った。

また特許の独占を狙ったアメリカ側がフランス側との訴訟で不利になりそうになると、アメリカとの政治的駆け引きで自分の政治的地位の強化を目論んでいたシラク大統領を取り込んで前代未聞の政治決着で終わらせた。これもアメリカ政界に強いパイプを持つギャロの思惑が強く作用している。あらゆる証拠から有利だったフランス側関係者からは「ドゴールが生きていれば･･･｣と落胆の声が上がるほどだった。結局、アメリカ中の皆がギャロに振り回されて行ったので一蓮托生の立場になり、これ程ギャロの悪行が暴露されても彼を糾弾できる人間は少なかったと思われる。それに二国間の合意書にはギャロの不利になるような事を言わせないような拘束的な条項まで盛り込まれているので、ギャロの欺瞞について喉から出かかっても訴訟を恐れて口をつぐむ者も多かったようだ。

彼はスーパースターの座からは滑り落ちた今でも、アメリカのウィルスや癌研究の学会では有力者だ。またラスカー賞はじめノーベル賞以外のほとんどの有力な賞を獲得している。ギャロのために大きな被害を受けたフランスや日本、オランダなどの数多くの研究者のためには許しがたい事だがそれがアメリカでの実情だ。日沼教授などがノーベル賞を受けないでギャロがこれを獲得するようなことは許せないと思っていたので、今回のノーベル賞の受賞劇には受賞を確実視していたアメリカでは落胆する声が上がったろうが私としては大いに溜飲が下がる思いだった。

因みにＡＴＬは世界でも九州の一部奥地で見つかる珍しい白血病で、ウィルスによる発ガンとして大変珍しくもあり癌の原因究明に非常に貴重な病気だった。このウィルスを見つけ出した日沼教授はこれを用いて日本に古来から居た縄文人を大陸から来た弥生人が奥地に追いやって現在の日本人が形成されたことを見事に証明した（つまり縄文人はほとんどこのウィルスを持っていて弥生人は持ってなかった。現在、ＡＴＬウィルスを持っている人間は縄文人の形質を色濃く残していることになる)。この本は出版されているので是非ご一読をお勧めする。