闇の子供たち

観る前からある程度は予想されていたとは言え、これ程絶望的で救いようのない映画も珍しいと思うくらいの作品だった。わざわざ小倉まで行って金を払ってこんな映画を観たことには少々気が滅入ったが、だからと言ってこの映画を観に行ったことを後悔しているかというとそれはまたそうでもない。この過酷な現実を知る意味でもこの映画は自分でも観てよかったと思うし、今でも出来るだけ 多くの日本人に見て欲しいと思っている。

この映画は数ヶ月前に東京などで封切られて好評を博したものの、九州では上映されてなくいつかは観たいと思っていた作品だった。それが今回小倉のシネコンで上映されることになり早速車を飛ばしたのだった。テーマが幼児売春と不法な 心臓移植であり、そもそもかなり重い映画なのはしようがない。

まずこの映画では冒頭からどうしようもない現実に頭をガツンと叩かれたような気になる。つまり貧困ゆえに自分の子供を闇組織に売らざるを得ず、その子供たちが日本人やヨーロッパ人旅行者のターゲットになる。それは少女だけでなく少年も同じで、変態達の飽くなき快楽の餌食になって心身ともにぼろぼろになって行く。その末路はエイズになるか先進国 の子供のための臓器移植のため生きたまま心臓などの臓器を摘出される道が待ち構えている。運良く生き延びても闇組織の一員として今度は自分が幼児売春を運営する側で働いていくことになる。

この映画の舞台はタイだが、実際にはタイでは日本人が心臓移植をしたことはないそうだ。また腎臓ならいざ知らず、心臓の場合は人工心臓を働かすなど高度に熟練したスタッフが１０人弱必要であり、このトップクラスの医療スタッフに厳重に口止めしてこの闇の不法行為を行なうことは困難だし、第一この不法行為に関係する多くの人間たちを抱え込んでは採算が合わないだろう（腎臓の場合は２人くらいでできるので話が別だが)。そもそも東南アジアでは医師はエリートであることが多く、 摘発されれば重刑というリスクを犯してこんな行為をする必然性は見当たらない。

このあたりがこの原作が真実なのかそうでないのか論争になった部分だろうが、やはりこの映画は基本的にはフィクションとしてみる必要があるのだろう。ただ具体的な例はフィクションだとしても 、物語の総体としては日本人やヨーロッパの人間が東南アジアでこの映画で描かれていたような行為をしているのは事実であり、 それだけでなく日本は幼児ポルノの発信地としても世界的に非難されている現実がある。この辺りは日本も真剣に取り組む必要があると思われる。

この物語ではアジアで 日本人ツアー客の行なっている蛮行を日本人ジャーナリストが追求する形を取っているが、このストーリーには終盤は意外な展開が待っている。ある程度明るい兆しが見えてきたと思ったら最後は強烈などんでん返しがあり 、驚愕の結末に終わってしまう（この先はネタバレになるが、このジャーナリスト自身がこの犯罪組織から少年を買った過去があり、そのため最後は自殺してしまう)。これが後味が悪い最大の原因だろうが、この部分はこの映画の山場でもあり 省くわけにはいかないだろう。最後まで重々しくて救いようがないドラマだが、現実を知るという意味では非常に価値がある映画だった。