新しいページ 2

新型インフルエンザ

ここのところ世界中でニュース報道されてきた豚インフルエンザ（メキシコで発生し、豚から人間に感染したインフルエンザ）が、昨日ＷＨＯの警戒レベルがフェーズ４となり新型インフルエンザと認定された。フェーズ４とは人から人への感染が小集団で発生する状態で、このフェーズから新型インフルエンザと認定される段階になる。大学院の時は免疫と感染をテーマにしていた私としては否が応でも首を突っ込みたくなる問題なので少々考察してみた。

ニュースによるとこの警戒レベルを決定するＷＨＯでの認定会議ではかなり異論が出たらしい。と言うのは、あまりにこのインフルエンザウィルスについて判らない事が多いからだろう。感染のスピードや範囲についてはフェーズ５と言っても良いほどスピーディに世界中の広範囲に広がっているにもかかわらず、メキシコでは１４９人の死者が発表されているわりには他の地域では死者はゼロだ。一見すると、メキシコと他の地域で発生しているウィルスは全く別物だと勘違いしそうなほどの差がある。ただしH１Ｎ１型で同じ遺伝形質だし、世界中の感染者は総てメキシコ帰りだから多分全員同じウィルスだろう。もしこのままメキシコ以外の世界中で死者が出ないようなら、フェーズ３でも良かったと思われる程の大したことのない感染症だと言えなくもない。

と言うのは、毎年日本での普通のインフルエンザでもシーズンに５０００～１００００人の死者が出ている訳だから、メキシコで３月から発生している今回のインフルエンザで死者が１４９人というのは別段特別なインフルエンザとは言えないとも考えられる。違うのはこれが豚インフルエンザだという点だけだ。これまで専門家の間では豚インフルエンザは弱毒性（Ｈ１Ｎ１）だと言われてきて、強毒性の鳥インフルエンザ（Ｈ５Ｎ１）より深刻には考えられてこなかった。

今回の一番の誤算はこの点だろう。これまで新型インフルエンザは鳥インフルエンザから出てくるだろうと思われてきて、その対策もほとんど鳥インフルエンザに対してのものだった。ところがいざ発生してみると豚由来のもので、ほとんどの専門家は予想を裏切られた思いだろう。もちろん予防の柱になるワクチンもまったく準備出来てなくて、これから大急ぎで製作に入っても半年はかかる。これはもし今回の新型インフルエンザが毒性の強いものであったら、取り返しのつかない失態で悲惨な事態になっただろう。

ただし今回のインフルエンザは豚インフルエンザ本来の弱毒性のインフルエンザの可能性が高く、先ほど言ったように死者１４９人というのも感染者の母集団次第ではかなり少ない人数なのかもしれない。もしそうならこのインフルエンザは感染性はかなり高いが毒性は低い普通のインフルエンザなのかも知れない。ただ少し気になるのは死者に若者が多かったことで、これは世界中で猛威をふるって甚大な被害を出した「スペイン風邪」の時と同じパターンだ。スペインかぜは当時世界の人口が１８億人だったなかで６億人が感染して（つまり世界の人口の３分の１）４０００～５０００万人が死亡した未曾有の疾患で、人類が経験した最悪の感染症だといわれている。そして普通のインフルエンザでは症状が重い小児や老人ではそうでもなく、青年層で重症化し死亡者も多かった。

その理由として二つの要因が挙げられているが、まず第一に若者は当然生きてきた期間が短いために、その間にインフルエンザに罹って獲得した抗体が少なく新型インフルエンザに対する備えが老人より出来てなかったこと。第二にこのウィルスに対する生体反応が若者のほうが激しく、ウィルスの毒性というよりもこの激しい生体反応のために却って身体に傷害が出ている可能性もある。アレルギー反応もそうだが免疫反応を含めて、生体反応は体力のある若者のほうが当然強く出る。ただ第一の案は老人については言えても小児については矛盾する。免疫学や微生物学の観点からはこの第二の案が妥当なところだろう。つまりウィルスを排除しようとする生体反応が逆に自分の体を傷つけている可能性が高い。

総じて現段階ではウィルスについて情報があまりに少なくて疑問点が多く残っている。ただ私が想像するに今回の新型インフルエンザは感染性はかなり高く短期間に世界中に広まるかもしれないが、その毒性は低く普通のインフルエンザと同じくらいの感染症と考えて対処してよいと思う。もしその予想が外れる時はウィルスが感染を繰り返していくうちに強毒性へと遺伝的に変異した場合だが、これもＨ１Ｎ１では現代人の間でそれほど強い毒性を発揮することは考えにくいと思う（スペイン風邪もＨ１Ｎ１だったがその当時は誰もＨ１Ｎ１に対する免疫を持ってなかったため甚大な被害が出た）。マスコミもあまり大騒ぎをしないほうが良いと思う。

少々紛らわしいが、毎年冬に流行するＡソ連型インフルエンザも今回の豚インフルエンザもスペイン風邪もすべてＨ１Ｎ１だが、それぞれウィルス株が違うので同一のウィルスではない。