悪戯
 

先週、映画「２０世紀少年｣を観た。これは昨年からの３部作上映作品で今まで１，２部を見ていたので、決着がつくこの３部作目は当然見ることに決めていたが、この映画シリーズは私が映画を見る際に参考にしているインターネット上の映画サイトでは評判はあまり良くなかった。ただし批評と観客動員はまったく別で 、この３部作目も大入りで普段我々が座っているシートには座れないくらいだった。

この映画はマンガが原作で私はマンガを見たことがなかったので、この映画の人類滅亡を企てる悪役（カルトのリーダー)が誰だか映画の終わる直前まで判らなかった。その事もあって結構楽しめた作品だったが、マンガを既に 見ていた人達はどうだったのだろうか？彼等にとってこの作品はその点ではあまり良い出来栄えではなかったのかも知れない。

ところで私の場合にはこの映画の趣旨とは多少違ったところで心に引っかかる点があった。それはこの映画の最後の部分で明らかになったのだが、このカルトのリーダー（主人公の小学生時代の同級生)が極悪の道に入り込むきっかけとなったのがこの主人公の責任であったのだ。と言うのは、 小学生の時に主人公が雑貨店でバッジを万引きした罪をこのカルトのリーダーが誤って被せられ、そのせいで以後高校までの学生生活の間、彼の人生に暗い影を投げかけることになっていった。

それが元で彼は人を恨み人類を絶滅するという人生を歩み始めたのだから、この万引き事件は 映画では大きなウェートを占めていると思われる。一寸したことで人の人生は大きく影響を受けるという見本みたいなものだが、実は私にも多少違うがある面では似たような経験がある。今思い出しても忸怩たるものがあるのだが・・・・・。

それは希望に燃えて高校に入学した頃のことだ。 私が入ったのは山口県では名の知れた進学校で、厳しい試験勉強を経てやっと入った安堵感とそれからの高校での勉強に不安感も持ちつつある種複雑な心境だったと思う。入ってから判ったのだが、この高校では進学の勉強のために修学旅行もなかったし、生徒会活動も消極的で毎年生徒会長も立候補者を立てるのに苦労していた。我々の入った時は確か２年生が生徒会長だった。

そしてその年も例年の如くその会長の後を継ぐ者が誰も立候補しなかった。我々は一年生だったが、どうも我々の学年から立候補しなければならない空気が漂っていて、結局私たちのクラスのＩ くんが立候補をすることになった。Ｉ 君は日頃授業中もあまり発言しなくて全く目立たない性格で、生徒会長というにはあまりにそぐわないタイプだった。これはフザケ半分と言うと正確ではないかもしれないが、お祭り騒ぎのような軽いノリで決まったことだった。多分仲の良い同じ中学出身者が後押ししたのだろうが 、最後はクラス全体で推薦したのだった。

他の立候補者はいなくて、当然彼が無投票で会長に決まった。この時はクラス中で盛り上がって私達も浮かれていたのだが、その内に頭から水をかけられるような事態がおきだした。Ｉ 君が授業中に「ガハハハハッ｣と大声で笑い出して、そのうち机から転がり落ちて床を転げまわりながら笑い続けるようになったのだ。これはそのうち毎日続くようになった。 結局、彼がまだ高校の授業に馴れなくて授業についていけず、さりとてそれをカバーするために予習や復習に割く時間も生徒会活動のために取れず彼の心で葛藤が煮詰まってのことだった。彼はそのまま精神病院に入院したが、暫くは我々も担任の先生も後味の悪い日々を過ごしたものだった。

昨年、同窓会に出席した時に、彼は今でも精神病院に入院していると風の噂で聞いた。つまりあれ以来４０年間も入院していたことになる。思春期の悪意のない一寸し た悪戯が、人の一生を左右するほどの大変な結果をもたらすこともあるのだと、鳥肌が立つような心境を味わったのだった。