レポーター梨本勝
　

地方に住んでいるとテレビなどで名が売れている有名人や芸能人に直接遭ったり会話を交わすことはあまりない（東京でもそんなことが頻繁にあるかどうかは分からないが）。今まで私の５７年の人生を振り返っても、こちらから出向いてコンサートやプロレス会場で会ったとかではなく予期せずに偶然会ったケースとしては竹下景子、アントニオ猪木、ジャイアント馬場 、梨本勝、勝新太郎、アン・ルイスくらいだろうか。

まず竹下景子とは私が大学生の頃に帰省して小学校以来の友人と遊んでいる時にだった。あれは私が二十歳を少し超えたころだったと思うが、友人と３人で下関の繁華街にある雀荘までわが愛車を走らせていたら、友人の一人が「なんでも功山寺でＨＮＫドラマのロケをしているって話だよ」と突然 東京弁で言い出した。この二人とは幼稚園や小学校からの友人で高校も同じところに進学した所謂竹馬の友だった。毎年帰省するとマージャン店でパイを囲んだり居酒屋で杯を傾けて旧交を温めていた。 二人は東京の大学に進学したが、一年くらい会わないうちにすっかり東京弁になってあか抜けて帰ってきて驚いたものだった。

功山寺とは高杉晋作が騎兵隊を挙兵した 場所として歴史上有名だが、ここは我々の通った中学の近くであり、部活ではここまでランニングしてきてこの寺の階段を何往復もダッシュする場所だった。私自身について言うと、中学生の頃は高杉晋作との逸話も知らなくて、この階段は単なる地獄のような部活のトレーニングの場所だった。友人がこの話をした時点で功山寺は近かったので、早速寄って行こうということになりこの寺に車を走らせた。

我々が到着して例の階段を駆け上がっていくと、境内でロケのスタッフが２人の俳優を囲んで撮影をしていた。男優は背が高くて女優はかなり小柄だった。そこでフィルムの入っていたケースを持ってきて女優をその上に立たせたらちょうど良いバランスになった。「ははーこれが雪舟と言うんだな」と感心しながら見ていた。この時の女優が竹下景子だったが、その当時はまだ無名のピチピチした新人でたまにＣＭで見かける程度だった。その彼女が「ゲゲゲの女房」ではおばあさん役を 堂々と演じているんだから年月の過ぎ去るスピードには驚く。因みに我々３人と竹下景子は同学年で、私は撮影の休憩時間に彼女に挨拶して握手をしてもらった。

アントニオ猪木とは宴会の後で飲み屋を探して熊本の繁華街で歩いていたら、向こうからやはり千鳥足の２人組が肩を組んでこちらに向かって歩いてきた。これが猪木とブッチャーだった。リングではあれ程憎悪むき出して流血の戦いをしている（ように見える）のに実際は仲が良いんだなと思わずニヤリとする情景だった。それと意外だったのはこの二人とも身長はそれ程でもなく１７６センチの私と大差なかったのには驚いた （パンフレットでは二人とも１８０センチを超えていた）。

逆にジャイアント馬場の大きいのにはぶっ魂げた。あれは平成元年に私が初めてハワイに行った時だったが、私がゴルフ場の受け付けで署名していたら横に雲をつくような大男が現れた。さすがにアメリカ人は大きいなあと見上げるとそれはジャイアント馬場だった。彼は我々の前か後をラウンドしていたがあの巨躯からは信じられないくらい迫力のない球を打っていてこれも思わずニヤリとしたものだった。

実は今日このコラムを書いているのは、レポーターとして名を馳せた梨本勝氏が肺がんで亡くなったからだ。「恐縮です！」と言ってどんな所へも質問をぶつけていくスタイルは、その後のレポーターのスタイルを作ったといっても過言ではないだろう。彼とは今から２０年前にラーメン店で 相席したことがある。友人と散々飲んで締めにラーメンを食おうと行きつけの店に入るとなんと横に座っていたのが彼だった。かなり酔って大きな声を出している我々を厭う素振りも見せずに、 我々の話し相手になってくれていろいろ裏情報なども教えてくれた。一緒に居た女性マネージャーと４人で妙に盛り上がってさんざん話しまくって、最後には彼の似顔絵を描いたシールを貰って帰った 。本当に誠実な人柄だと痛感した。まだ６５歳だというから本当に無念な死だったろう。合掌！