風評被害

　

今回の大地震はまさに未曾有の大災害になってしまったが、この地震についての風評被害はあまりに酷いと思う。 地震については自然災害だが、風評被害については人災と言わざるを得ないだろう。まず震災後に福島県の原発から半径３０キロメートルには 物資を運搬するはずのドライバーが入りたがらずに、救援物資が届かない状態が永らく続いた。それにプラスして一般人の買占めなどで物不足に拍車がかかり 、被災地になかなか救援物資が届かない事態になった。福島原発では作業員がわが身を犠牲にして放射能の拡散に立ち向かっているというのに、なんという恥ずかしい行為なのだろう か。思うに、関東地方でのミネラルウォーターや食料品の買い占めなども放射能に対する風評被害が根底にあると思う。

これは一般人だけでなく、放射線についてある程度知識を持っているはずの医療関係者も同様で、ある医院では福島県から避難してきた子供の診察を拒否している。これなどは全く恥ずかしい話で、現在のような 数〜数十マイクロシーベルトというまるで問題にならない程度の放射能レベルでこのような診療拒否をする医師はどうかしていると思う。一般的に言って、医師は大学に居る時は実験などで しばしば放射性物質を扱っているし、臨床家になってからもレントゲンを扱うのでその辺りの知識は一般人よりもかなり詳しいはずだ。

私の場合も大学院の時はラジオアイソトープを使って実験を行っていたので放射性物質に対して慣れていた（ある意味横着になっていた面もあった）。例えば現在問題になっている数百倍〜数千倍のレベルの放射性物質を溶かした溶液を間違って腕にぶっかけてしまっても、「おや、やっちゃった！」という感じで水道の蛇口で漱ぐだけでそのまま実験を続けたものだった。あの当時の放射性物質の扱いは今考えると酷いもので、ちゃんと放射性物質を扱う実験施設は決まっていたのに かなりの者はそれを守っていなかった。それには理由があって、実験データを測定するだけのために一番はずれにあるその施設まで１０分から15分歩いて行か ねばならず、さらに専用の防御服に着替える必要があり面倒なことこの上なかった（もちろん現在ではこんな事はなく、システムも厳格になり皆さんちゃんとルールを守っていると聞いている）。そういう私からすると医師による このような診療拒否の態度にはちょっと信じられない気がする。

ただ今回の風評被害は日本国内だけでなく、欧米においても相当に酷い事態がみられる。それはゴシップ専門のいい加減なマスコミだけでなく、ＣＮＮのような一流とみなされているジャーナリズムでも同様だった。それはアメリカのジャーナリズムにおけるスター記者やテレビ司会者でも事情は変わらない。またそういう報道に影響を受けているのだろが、国際線のパイロットが日本にはフライトしたくないと操縦を拒否する事態も発生している。 本日の新聞では鋼材にも放射能が付着しているとして受け取り拒否をしたり、タンカーが日本への寄港を拒んだりしていることが報じられている。海外ミュージシャンの日本公演のキャンセルも続出している。また日本在住の外国人は洋の東西を問わずに大勢が国外に脱出している し、本国からの日本退去の指示が出た国も多い。

そういう なかでも一番驚いたのは海外からの救援隊についてだった。北欧からの救援隊は日本に来た直後に原発事故のニュースに接して、ほとんどなにもしないまま慌てて本国に帰っていった。一応「本国政府の指示があったから、仕方なく帰ります」というようなコメントを残していたが、リーダー自体が放射能汚染にビビっていたのは明らかだった。 今回の外国のメディアの報道には開いた口が塞がらないという感じだが、これは今回の震災の記事を書いた外国人記者がほとんど日本についての知識がなく憶測をもとに情報を発信したことが大きいようだ。

そもそも人間というものは得体の知れない物に対しては恐怖心が増幅するものなのだろう。知っていればなんという事もないのに、対象が分からないと掴みどころがなくて恐怖の念だけが増大するのかもしれない。 現在、原発の中では相当に高いレベルの放射線が出ているが、その外では私は外国や日本のマスコミが報道しているほどに問題になる量の放射線は出てないと確信を持って言える。それにしても今回の大震災においては地震 や津波自体の被害だけでなく、その風評被害で被災者のダメージを大きくしている面も大きいと思う。