愛猫について

　

今夜、ＮＨＫ−ＢＳで愛猫と飼い主の物語が放送されていた。飼い主は夏目漱石と向田邦子で先日は内田百�閧熄ﾐ介されていた。それぞれ愛猫家にとって涙を誘う物語であり、猫も最後の別れがいずれ訪れることを覚悟しなくてはならないと今さらながら思い知らされる逸話だった。我が家でもこのテレビ番組と似通った状況が迫っており、 なんとも身につまされる話だった。

実は我が家の愛猫「くーにゅん」が二か月前から深刻な状態になっている。ある日急に食後に顔を振って食事を止めたり、それまで大変な食いしん坊で常に餌を要求していたくーにゅんが全然食べなかったり 普通じゃない態度を見せるようになった。そういう状態が続いたある日、どうも下顎に腫瘍ができているんじゃないかと思って動物病院に行って診察を受けた。診察の結果は歯茎の感染か腫瘍だろうということになった（結局は悪性腫瘍だった）。

その頃はまだ好物の食事を与えると勢いよく食べていたが、次第に食欲も落ちてきて食べる勢いも弱くなってきた。以前喰らいつくように食べていた猫缶は全く手を付けなくなり、かつお節もダメになった。そこで手を変え品を変えてどうにか食べる方法を探っていたら、魚の刺身をかみ砕いて与えるとどうにか食べることが分かった。初めは口で噛み砕いて与えていたが、少しでも砕けてないブロックを口にすると痛がって食べるのを中止してしまう。現在はミキサーで小さく砕いて、それを皿に入れると食べられないので手に盛って与えている。

また痛みの為か涎を呑み込めないので常に涎をつららのように口から１〜２本下げている。これが臭くて、困ったことに自分でも臭いのかこれがついた餌は全く食べなくなる。そこでティッシュでこのつららを取りながら、手に盛って食事を与えないといけない。食事を終えると手のひらは魚肉の残骸と涎で強烈に異臭を放っていて、私の朝食の時は洗剤で 力いっぱい洗わないととても食べる気がしないほどだ。また家の板張りの床のあちこちにこの涎が落ちているので、注意しておかないとこれを踏んずけてしまう。最近は家の中を歩くのにも緊張感が必要だ。

このような事情が次第に悪化してきて、最近は食事だけでも結構面倒な作業になってきている。毎朝妻がミキサーで作った食事を臭いが籠るのでベランダに出て手に盛って与えている。これを小さくしないと痛がるので５ミリ大の立方体サイズにして食べさせているが、時間が１０分から１５分かかる。朝は妻や娘は化粧や朝食の準備でそんな時間は取れないので、これはすっかり私の仕事になっている。私も本当は新聞をゆっくり読みたいのだが、それも難し くなっている。 昼と夜は妻と娘が赤ちゃんに対するように何かと喋りながら餌を与えている。

それでも時々痛がって食べるのを止めるので、二日に一回は犬猫病院に行って点滴を打っている。この猫は以前からあまり水を飲まなかったが最近は全く飲まなくなった。つまり水分は食事からだけ摂っているようだ。そういう事だから点滴で水分と養分と鎮痛剤を入れている。この鎮痛剤 が効いている間は家に帰ってきてもどうにか食べるが、それが切れたら食事を全く摂らなくなるのでどうしても一日おきには点滴を打つ必要がある。この値段がバカにならないようで、妻などは子供の仕送りがやっと無くなったと思ったら、猫で 一人分の仕送りと同額の治療費がかかっているとこぼしている。

このように手間暇かかって治療費もかかり大変な猫だが、今まで家族を癒してきたことを考えると無慈悲なことはできない。この腫瘍は悪性で治る見込みはないものの、 この先それほど永くはない天寿を全うするまでは我々家族で精一杯の看護をしていこうと思っている。