鼻血

鼻血の患者などそれこそ毎日の如く診ている私などからすれば全く馬鹿げた話だが、一般的にはそれが放射能と結びつくと漠然とした不気味なイメージを抱かれるのかもしれない。 先日、「美味しんぼ」という漫画雑誌で放射能を浴びたせいで鼻血が出たという描写に対して、賛否両方から多くの意見が出てきて騒ぎになった。どちらかというと否定的な意見が多かったが 、中にはこの描写に肯定的な意見を述べる者も登場したようだ。否定的な意見というのは医療関係者に多く、そういう現象は起こり得ないというもので、それ以外の一般的な意見 では風評被害を助長するような意見は慎むべきだというのが多かった。

肯定的な意見としては、隠し事をしないで鼻血が出る機序についてしっかり調べる必要があるとの意見が多く、また少数の医療関係者からは鼻血と放射能を浴びたことの因果関係があるのではないかとの意見も見られた。私自身はこういう意見は全く非科学的だと思うし、医学的に見て全く辻褄が合わないと思っているので医療関係者からこういう意見が出てくるのには首を傾げている。

そもそも放射能に関する事件が起こるとどうして人はまるでお化けにでも出くわしたように冷静な思考が出来なくなるのか不思議なことだ。それは医者についても同様でどう考えてもあり得ないような結論に至ったりしている。ガレキの問題でもそうだったがいくら安全面について調査も尽くして問題ない事を表明しても、それらに反対するグループには全く耳に入らない。 北九州市でも同様だったが、兎に角「怖い！怖い！」の一転張りで聞く耳を持たない状態だった。

今回の鼻血についてもそうで、そもそも被災地で数日〜数十日取材しただけで鼻血が出るなんて全く考えられないことだ。放射線被害で鼻血が出ると言うことは血液の中の血小板が相当数減らないと起こりえない。通常は３０万以上はある血小板が４万を切るようになると自然出血が見られるようになるが、その段階では既に血液像には重大な異常が出ている筈で鼻血が出るなどという悠長な事を言っている場合ではない。もしそうなら現にいま福島に住んでいる多くの人達にはもっとすごい異常が出ている筈で全員至る所に内出血や脳内出血、内臓出血など重篤な疾患に罹患しているはずだ。そんな話は 大学病院の医師からもまるで報告されていない。

今回の漫画の場合は、その取材がストレスでその結果鼻血が出たというのならまだ少しは関連付けできない訳ではないが、なんと元町長に「被ばくしたからですよ！」と言わせている所などちょっと酷過ぎると思う。極端に偏向した意見のためか若しくはあまりにも無知なために例のお化けが怖いという心理状態が高じてこんな状況になったものだろうか。

いくら漫画と言ってもこの作品は出版部数も多く影響力もかなりのものだと言われている。私は漫画は読まないのでそこまでとは思わなかったが、周囲に聞いても大人の間でも結構読まれているようだ。 作者にそれだけの影響力がある出版物なのだという自覚が希薄なのかもしれない。

この元町長は政治的に破れて立候補が出来なくなった腹いせに被ばくに関して自治体などを相当攻撃をしているという。ニュースでは「被ばくして健康を損ねたので立候補を断念した」と言っていたが、 震災時の不手際などに対する議会の非難などで立候補しても当選できない状況を考慮しての断念だったようだ。その彼が福島に住んでいる人達の立場も考えずに自分の憤懣をぶつけるがごとく「 放射能被曝を避けるために福島には住むべきでない」などと主張しているのは、元自治体の長だった責任感など全く感じてない稚拙な発言だろう。

その彼が鼻血の件を声高に叫んでいたのをこの漫画の作者が飛びついて二人で鼻血騒動を作りあげたというのが真相のようだ。やはり このような悪意を持った者や思い込みの強い情報発信をする者の存在も考えると、こういう震災の後では一定の制限を設けて風評被害を防ぐような方策も必要になってくるのだろうか。