少女の心の病理

数日前に日本中が驚愕するような事件が起きた。長崎の佐世保市で高１の女子高生がクラスメートを殺害して、首や手首を切断していたというのだ。この二人は進学校に学んでいて普段それほど問題行動をするような女子高生ではなかった。それどころかむしろ被害者は優等生、加害者 もかなりの成績優秀者だったらしい。いわゆる街中で屯していて夏休みに問題行動を起こしやすいヤンキー女子高生とは全く異次元の生徒だったようだ。

今回の事件で驚くのはこの殺人事件が女生徒一人による特異な犯罪だと言うことだ。この犯人の女子高生は「人を殺してみたかった」、「人を解体したかった」などと言っていて、実際に頭部は切断されていて、腹部も切り開かれていた。「体の中を見てみたかった」などと言われるに及んでは、まったく唖然とするしかない。今まで日本の犯罪史上こんな動機で殺人が行われたケースはあっただろうか。身の毛もよだつとはまさにこの事件のために使われる言葉だろう。

我々医者を目指して医学部に入学したい者も、実際に人体を解剖するに際しては相当な覚悟と踏ん切りが必要だった。我々の頃は医学部に入って３年目から人体解剖が始まった。それまで動物の解剖などは 経験があったが、やはり人体を切るとなると全く違う気分になったものだ。結局は覚悟を決めてメスを握るのだが、結構後まで尾を引いたものだった。人によっても違うのだろうが、暫らくは食欲が落ちたり、日によってはバターや肉など解剖する人体の部位に似た食材を食べたくなくなったりしたものだった。

医者になってからは生きた人間を切らないといけなくなるので、もうそんなことは言ってはおれなくなったが、それでも大きな手術の跡などはやはり食欲が落ちたりしたことは幾度もあった。やはり生身の人間を切ったり内臓を見たりするのは永年の経験のある医者でも気持ちの良いものではない。そのような体験をしてきているので、この女生徒の発言は全く理解が出来ない。僅か１６歳でこういう欲望を持ち、またそれを実行するなどとは！　ニュースなどで報道される事件の経過を見てみると、この女子高生は夜に殺人を犯して深夜に一人で被害者の子の人体解剖をしていることになる。

深夜に一人で人体解剖という我々のような経験者でも尻込みしそうな作業を、この１６歳の女子高生が淡々と実行したというこの驚愕の事実は俄かには信じられないほどだ。これが事実ならまさに日本の犯罪史上でも前代未聞の事件だろう。日本は世界でも治安の良い安全な国として知られていただけに、凶悪な事件も外国に比べると少なかった。そのような日本でこの子の心の病理は果たして解明できるのだろうか。

今後、 この女性については発達小児学や心理学の分野を中心に解明が行われるのだろうが、専門家でも十分に理解するのは難しいのではないだろうか。こういうケースが非常に稀なだけにこの事件 の解明は難航することが予想される。この子の母親は東京大学を出た才媛で、父親も漏れ伝わるところでは高学歴のようだ。そしてそういう遺伝子を受け継ぐようにこの子もかなり優秀だったらしく東京大学への進学を志向していたという。一から十まで一般的なパターンから演繹するのが難しいケースで、関係者の苦労が予想される事件になりそうだ。

今回はあまりにも驚愕する事件であり、尚且つまだ事件発生から時間がたっていないため、未知の部分が多く今の段階でそれほど深い考察は出来ない。それでも今言及するべきだと判断するほど特異な事件だった。今後、真相が判明するにしたがって専門家の間で核心に迫るコメントが出てくるのかもしれないし、またそうなることを願っている。