クローン人間

最近、クローン技術のことがよくマスコミで報道されるようになってきた。その中でも特にクローン人間について盛んに報道されている。これはもし実現すると、医学生理学の分野ではアポロ宇宙船が月に着陸したことと同じ位の衝撃的な出来事だと思う。
アポロの場合は人類が始めて地球以外の惑星に、足を踏み入れたということで画期的だった。クローン人間は受精卵を使わずに体細胞の染色体で、人間を誕生させることになりアポロの月面着陸に劣らず驚嘆するな出来事だ。

理論的に言えば遺伝的にまったく同一の人間を量産できることになるし、あまり気づかれてないようだが技術が進歩していくと、卵子は別に人間のものでなくても良いということになると思う。つまり牛や馬の卵子に染色体を入れ込んでも人間が誕生するようになる可能性がある。
それは卵子の染色体と受精させずに出来あがった体細胞の染色体を使うので、卵子は栄養さえ提供できれば良いからだ。もちろん染色体と体細胞の免疫反応などいくつかの問題はあるが、それらの解決は難しくは無いだろう。
このままの状態で技術が進歩すると、２１世紀にはクローン人間が牛や馬からどんどん生まれてくるという、ショッキングな場面を目にするようになるかもしれない。

２０世紀の後半になって科学は万能ではなく、歯止めが必要だという考えがやっと芽生えだした。今までは特に核兵器などを前提にした議論だったが、これからはこの生命に関する遺伝子操作が一番の問題点になってくると思う。

科学者自身はできる限り技術や知識を発展させたいと願うもので、自分たちでその進歩に歯止めをかけるのはほとんど不可能だろう。これは私も経験があることだが、取り組んでいる実験や将来やる実験はどんなことをしてもデータを得たいものだし、そのために有利なテクニックの開発に足かせを課せることはまず考えられない。原子爆弾がそうであったように、それがどんなに人類にとってデメリットをもたらすものであっても答えは同じだ。これは科学者だけに任せてはいけない問題だろう。

どうしても進めてはいけない科学技術というものはあると思うが、核兵器が実現してしまった今日では、このクローン人間技術は真っ先にあげなくてはならないものだろう。羊のドリーで分かるようにこれは最早そんなに難しい技術ではなく、禁止さえしなければすぐにも誰かが実現してしまう種類のものだ。自分と同じ人間を作ってそれを病気になったときに、臓器移植に利用するという話もあるがとんでもない話だと思う。

人間は寿命があるわけでそれをむやみに引き伸ばそうと考え出すと、このような酷い考えが出てくると思う。やはり遺伝子はあまりいじる物ではないと思う。今は問題にならなくても将来にとんでもないしっぺ返しが待ち受けているかも知れない。今は農業でも盛んに遺伝子組換えなど行われていて、医療の分野でも遺伝子操作はどんどん進んでいるが何やら得たいの知れない不気味さを感じる。これは臓器移植など違って、生命の本質にあたる部分を操作しているからだ。

こんなことを言ってもクローン人間の出現を、この先１００年も２００年も押さえ込むというのはほとんど不可能のように思われる。いずれ誰かがやってしまう可能性がある。だとしても少なくとも法律では禁止しておく必要があると思う。法律の歯止めがなくなると、その後はやり放題となりクローン人間があふれる無気味な世界が待ち受けることになるような気がする。