白鳳の立ち会い

先日、終了した春場所において白鳳が結びの一番で立ち合いに変化したことでかなりの批判が巻き起こった。いろいろな非難があった中で結局は大横綱は立ち合いの変化なんかするなということなのだろう。これはその日に大相撲を見に駆け付けた観客も大ブーイングだったし、相撲解説者やマスコミも同じトーンで非難していた。テレビに登場するいわゆる相撲 オタクも全く同じ反応だから、これは世間一般の大多数の意見なのだろう。その証拠にそれに反する意見はほとんど聞かれなかった。

ただ私はこの意見には真向反対の立場だ。そもそもそれ程忌み嫌うくらいの取り口なら規則で反則にでもするべきではないか。ルールで認めておいてその作戦を採ったからと言って後でさんざん非難するのはどうなんだろうと思う。百歩譲って、横綱がとる取り口ではないということだとしてもやはりおかしい。同じルール上で行われる競技で 、ある者だけが不利益を被るのはどう見ても不味いと思う。そもそも現代の相撲界のように不自然なほど体重が増してきて、そのぶつかり合いで脳震盪さえ起こすほどの衝撃がある取り組みで立ち合いの変化を禁ずると相手は思いっきり体重をぶつけてくる。これではあまりに危険だし体重の多い 力士が圧倒的に有利になる。

相手がもしかすると変化するかもしれないとの思いが頭の片隅にあるから、いくら重量級の力士でも変化に対して少しは気を配って余力を残して立ち会っていくことになる。これが両力士とも相手が変化しないと分かっているとどれ程の力でぶつかっていくか？　これでは毎日脳震盪や大怪我が発生するだろう。重量も少しでも増やすために今でも不健康なほど脂肪を貯め込んでいるのにますます体重を増やしていくことになる。

また朝青龍のように体格的には小兵でも運動神経の良くて動きの素早い力士は長所を封じられて圧倒的に不利になる。つまり小型力士は最初の一撃でぶっ飛んでしまう取組が増えてくるだろう。後は不健康にブクブクに太った重量級力士だけが闊歩することになり、見るほうからしてもこれはあまり興味が 涌く取り組みではないだろう。どんな競技、スポーツでもただ体格が大きい方が圧倒的に有利な種目は観客もそんなに興味が涌くこともないと思う。

野球やテニス、サッカーなど世界的に栄えているスポーツはある程度体格によって有利な面はあっても、中には敏捷性で体格に勝る相手と互角に戦っていける余地を残している。メジャーリーグのイチローやゴルフのＧ、プレーヤー、テニスの錦織、サッカーのメッシュなど小さくても敏捷性や体のばねで十分世界一流のプレーヤーは大勢居る。それはそのスポーツがそういうルールで 行われているからだ。それを相撲だけ力だけの勝負にするようなルールを作るのは前時代的な気がする。おまけに相撲は既に世界中から力士を目指して入っている状態だ。日本人だけにしか理解できないような美学で変なルールや風習を作りあげるべきではないだろう。

千秋楽で涙を流した白鳳はその辺りのことを考えてさぞ悔しかったと思う。ただその本心を言うとあの館内に溢れるブーイングに 火を注ぐことになるのは明らかだったから、そっと涙を流して 本心を胸にしまい込んだのだろう。その胸中や如何ばかりだったろうと思う。一つには日本人力士があまりにも情けない成績でほとんど優勝できない現状が、観客のこんなやつ当たり的な反応を誘うのかも知れない。やはり相撲は千代の富士や貴乃花のような力強い日本人力士が居ないと、こういう訳のわからない反応を巻き起こしてしまうものなのかもしれない。そういう意味でも本当に強い日本人力士が登場するのを願ってはいるのだが、八つ当たり的な非難は見ていて気持ちの良いものではない。今後も白鳳には自分の一番勝率の高い取り口で相撲取って欲しいと願っている。