藪の中

強姦致傷事件で取り調べを受けていた俳優Ｔが釈放され、事件そのものも起訴なしという形で決着した。結局、示談が成立して事件は法廷に出ることはなく終了ということになる。ただ釈放の際に弁護士が出した声明文がなんとも不思議なものだった。内容は双方が合意の上示談が成立したことともう一つがかなり理解しがたいものが含まれていた。それはこの事件は報道されているようにかなり強引に女性を引っ張り込んで無理やり関係を持ったのではなく、ある程度お互いの合意のもとに行為が始まって、途中で女性が拒絶の意思を表したかもしれないがそれはＴには伝わってなくてＴは最後まで合意の元の行為と思っていた可能性があるともことだった。

この真相はもう事件が法廷の場に出ることはないので藪の中ということになるのだろうが、不思議なのはこれほどの内容を示談成立後に公開することだ。この内容はＴにとってはかなり有利なもので、これが本当なら強姦と言うより和姦に近いとの考えも浮かび上がってくる。そして女性が途中で気が変わったのを酔ってたせいで見逃したか突っ走ったかという問題があるとしても、その時間帯などを考えるとＴに一方的に責任を求めるのは酷なような気がしてくる。

それ程の内容なのだが、逆に言うと女性にとってはこれはかなり不利なもので、一方的な強姦の被害者だと思われていたのが初めはお互い合意して始まったことになる。これはこういう事件では決定的なことで強姦の本質にもかかわってくると思う。それ程の重要な文書なのだが、最も不思議なのはこの文書はマスコミに公開されていることだ。それは相手側の弁護士も当然知っているわけで、こんなに不利な文書を法律の専門家が公開することを合意していると思われる。これは一体どういうことだろう。

可能性はいくつか考えられるが、まず第一に事件そのものがこの文書のように合意のもとに始まってそれ程悪質なものではなかったというもの。これだと検察が起訴を見送ったこととも整合性がつくしこの文書とも矛盾はない。次はそれよりも強姦に近いのだけどもＴの将来を考えると是非ともこういう文書を出したいＴ側がかなりの金額をつぎ込んで目を瞑ってもらったというもの。ただこれだと女性側にはかなりの侮辱的な内容なので相当の金額を積まないと無理だろうし、ハニー・トラップの可能性まで言及されているこの事件でそこまで女性側が折れるのも不思議な感じがするが・・・。

また双方合意のもとに公開しないことになっていたこの文書の内容をＴ側の弁護士が一方的に公にしてしまった可能性もあると思う。それに対しては当然女性側の弁護士の反撥もあると思われるが、これで泥仕合になる危険性を恐れた女性側が事件が収束することを優先させて敢えて反論しなかった可能性もないではない。しかしこれはいろいろな意味であまり可能性は高くはないだろう。それらをすべてを考慮するとどうもこれまでの報道が本当に正確な事件内容を伝えてきていたのかも疑問が残る。こういう事件の特殊性から警察のリーク情報が主体となると思うが、どうしても警察に有利な情報が出てくることになるしそれをチェックすることも難しい。

事件自体が不問になった今となってはこれはもう誰も究明することはできないし、また被害者側の女性もこれ以上この件を追求していくことは決して望まないだろう。こうしてこの事件は多くのもやもやしたものを含んだまま忘れ去られていくと思う。それにしてもＴの今後はどうなっていくのだろうか。このままでは強姦の容疑者としてのイメージはついて回るだろう。本当にこの弁護士の出した文書の通りなら敢然と法廷に持ち込んだほうが良かったような気もするが、やはり後ろめたい部分がある程度大きかったのかな？