ゴーン逮捕

先日報道された日産のゴーン会長の逮捕劇はまさに寝耳に水の事件であり本当に驚愕させられた。２０年前に業績が悪化し潰れるのではないかとみられていた日産を僅か数年で�X字回復させて、今ではルノー 、日産、三菱の三社連合を世界第二の自動車メーカーにまで持っていくほどにその手腕は評価されていただけに信じられない気持ちだった。ただ今までにゴーン氏の日産の資産を公私混同して使い込んだり、自分の家族のために使ったりでやりたい放題にしてきた面があるようだ。 また姉を実績のないコンサルタントにして年棒を払ったり、自宅を日産の費用で購入したり、娘の大学の費用を日産から払わせたりと 日産の資産を私物化してきた行為は結構酷いものがある。

ただこういう点は法律の専門家に言わせれば逮捕するほどのことではなく今回の件には疑問を呈する人もいる。 それは直接の逮捕容疑である報酬を半分しか記載してなかった件でも、これは退職後の報酬でありまだ手にしてはないし日産の今後の業績次第では減額されたりなくなる可能性もある。マスコミなどで報道されているように報酬が巨額すぎるということ自体は別に法的には問題ないわけで、裁判でもこういう類のスキャンダルは追及されることはない。つまり 元々今回の逮捕容疑は公判維持にはかなり危うい材料だというのだ。

またある面では今回の逮捕は日産のクーデターに検察と官庁が一体になって協力した面があるのではないかとのことも疑われている。日本でそんなことが起きるのかどうか少々懐疑的だが、日産にはクーデターを起こしても不思議でない程にゴーン氏に対して相当な不信感があったのは間違いないようだ。それは これまでフランス政府によるルノーと日産の経営統合をゴーン氏が抵抗していたと思われていたのに、最近彼がフランス政府の意向を受け入れる様子が見られるようになり日産内でストレスがたまっていたらしい。ゴーン氏はマクロン大統領からルノーＣＥＯに再任する代わりに日産 との経営統合を受け入れるようにという条件を飲んだのはかなり確実なことのようだ。

日産としては潰れかかっていた会社をゴーン氏によって救われた恩義はあるものの、今では日産のほうがルノーより会社としての規模も車の売り上げも大きく上回っており、ルノーに日産の利益を上納している状態だ。ルノーの利益の半分は日産の上納金によるものと言われている。 会社としては日産のほうが大きいのにルノーに日産株の４３％を握られて、議決権はルノーにしかないと踏んだり蹴ったりの経営になっている。さらにゴーン氏により日産の資産を野放図に使い込まれルノーの子会社のような地位に落とされるのは我慢できないということだろう。

今度の逮捕劇の後には様々な情報が乱れ飛んで、この事件の実態はまだ明確にはなっていない。法律関係者の間では日本のように逮捕して長期拘留して、その間に弁護士もつけず自白を引き出すという手法は海外の先進国ではあってはならないことで、今回も同じ手法を使えば海外からの非難は必至で難しいのではないかとの考えが多い。となると長期に拘留できずある段階で保釈してから裁判になる。その段階で海外逃亡というかまだＣＥＯを務めているフランスに帰国する可能性もあり、裁判を継続することさえ難しいのではとの声もある。今の段階では三社とも連合を解散する気はないし、もしそうしたら現在の自動車業界ではライバルのフォルクスワーゲングループやトヨタグループなどと比べてあまりに無力でやってはいけないだろう。ただ日産としてはフランス政府の傘下に入ることは会社を挙げて反対なので、カリスマＣＥＯを失った今は将来のビジョンは誰にも見通せないのではないだろうか。

閑話休題、一つ面白いのは今回の騒動で主役を務めている日産の三氏 （ゴーン会長、西川社長、志賀元COO）が皆１９５３年生まれの世代ということだ。私と同じ学年でありそれだけで興味が湧いてくる。つまり日本やブラジルで戦後の団塊の世代の少し後のまだまだ同学年の子供が大勢居た時代に生まれた３人が同じ時代に学校でも競争に打ち勝ち紆余曲折ありながらも日産の経営陣になり、協力して潰れかかった日産をここまで引っ張ってきたということを考えると、同じ年に生まれた者としてはよく頑張ったなあとある種の感慨が湧いてくる。それがここに来て敵対する局面になり、日本だけでなくフランス政府までを巻き込んでの大騒動になっているわけで、人生の厳しさ、浮世の辛さを感じる。

本日のニュースではゴーン氏はこれまでの不正以外にも自身の資産運用の失敗分14億円を日産に肩代わりさせたとのことだが、 今の段階では我々が得られる情報は日産や検察側から漏れてくるものがほとんどで、ゴーン氏からの供述、主張などは全く分からず闇の中だ。今後本当に今言われているような悪行をゴーン氏が犯したのかそうでないのか知りたいものだ。それが分かってくるとさらにこの事件は複雑に規模も大きくなってくるのではないか。そうなるとゴーン氏個人の問題から日本とフランスといった国家間の問題にも発展していくのかもしれない。暫くは目を離せない展開になりそうだ。