新型コロナウィルス肺炎

年末に中国の武漢で発生した新型コロナウィルスによる肺炎の流行が留まるところを知らず、今では中国全土だけでなく世界のいたるところで患者が発生しだしている状態だ。３日現在で中国での感染者は１７２０５人、死者も３６１人と既にＳＡＲＳ の感染者数の３倍、死者数でも上回った。 地区の医師会からもこのウィルスに対する学校への対処の仕方の通知が来たが、これを見るとこのウィルスの流行についてはこれまでのウィルスとは段違いに厳しく考えているようだ。これだけを 考えると世界的なパンデミック状態のように思うが、これにはちょっと落ち着いて考える必要があると思う。

そもそもこのウィルスは毒性はＳＡＲＳやＭＥＲＳのように強くはなく、インフルエンザより少し強いくらいだろうと思う。それは致死率を考えるとすぐ分かるが、ＭＥＲＳは致死率３〜４割、ＳＡＲＳは１割とかなり毒性が強かったが、このコロナウィスルは今のところ２％(最終的には0.1〜0.2%)くらいと言われている。それもあとで述べるがこのウィルスは軽症者つまり軽い咳や軽度の発熱のみが症状の患者や不顕性感染（感染しているがまったく症状の出ない）が多いので、実際の感染者の実数はもっと多くて母数が大きい分死亡率もかなり下がってくるものと思われる。実際はＳＡＲＳやＭＥＲＳの場合は体力のある若者もかなり亡くなるケースが報告されていたが、このウィルスの場合は肺炎による死者のほとんどが老人であったり基礎疾患を持っている人たちだ （インフルエンザで死亡するのもこれは同じ状況だが）。しかもインフルエンザと違ってワクチンや治療薬がないのにこの程度の死亡率というのはウィスルとしてはかなり弱いのでワクチンなどが出そろうとやがて 消えていくウィルスだと推測している。

そういうことからウィルスの毒性は弱く軽症者が多いことが推測されるが、逆にそのために感染者が社会に出る率も高く、感染封じ込めという意味ではマイナスに作用することになる。おまけにこのウィスルは無症候性感染者（症状の出ない人）や潜伏期間中の人からも感染すると言われているので、感染者は急速に増えていきやすい。既に日本でも表面化してないだけでかなりの数の感染者が社会に居ると思ったほうが良いだろう。ただし先ほど言ったようにそれでパニックに陥ったりする必要もないと思う。正しく相手を知れば肺などに疾患を持っている人以外はそれほど恐れるウィルスとは言えないだろう。

ただ今現在の報道などを見ていると何だかおかしな現象に出くわすことが多いと思う。インフルエンザは現在アメリカで流行していて死者が９千人に上っている。そもそもインフルエンザは日本だけで毎年１万人死者を出している感染症なのだ。それに比べて日本では今回のコロナウィルス肺炎はまだ一人の犠牲者も出ていない、それなのに報道はこのウィルス一色でインフルエンザはアメリカの流行を含めて全く報道されてない。これを見ただけでも明らかに報道機関を含めて冷静さを失っているとしか思えない。これにはまだこのウィルスの正体が分からないため得体のしれないウィルスに対する漠然とした恐怖心がそうさせているのかも知れない。今後、このウィルスで数人〜数十人の死者が出ることも可能性としてはないわけではないが、それでも圧倒的にインフルエンザのほうが犠牲者は多いのだ。その辺りは頭に入れて報道を見聞きする必要があると思う。あまりにこのウィルスを 過敏に怖がっていると足元をすくわれる事態が生じないとも限らない。

それとマスクに関しても頭を傾げたくなることが多い。現在、報道ではマスクが万能の防御策かのよう でマスクがなくて人ごみに出るのは自殺行為のように喧伝されている。またそれに乗せられたのか売れすぎて品薄や欠品状態になり、ドラッグストアでのマスクの争奪戦や便乗値上げが起きている状態だ。店頭では品切れでネットでは１万円のマスク 一箱が２０万円まで高騰させて販売している業者もいるようだ。 またマスクをしてないと店にも入れないとして入ろうとする客と店の間で乱闘まで起きている。ウィルス全般に言えることだが、マスクはほとんど意味がないとまでは言えないまでも今普通の人が使っているマスクではウィルス感染を予防することはまずできないと考えたほうが良い（咳や痰を人に浴びせないというエチケット的な意味合いはあるが）。

例外的に医療関係者がトレーニングを積んでＮ９５という限りなく目の小さなマスクを厳密に装着して目にはゴーグルを着けるとかなり有効だが、 私も一度それをやってみたがかなり呼吸するのも苦しい位でとても実際の診察では装着することはできなかった。それにウィルスは手を介して口から入るのが圧倒的に多いので、 どんなに厳密にマスクをつけていても食事の時は口から入る可能性も高い。そういうことだからマスクなんかより手洗いを厳密にしたほうがよほど予防には有効だと思う。 ウィルス学を齧ったものから見ると今のマスク騒動は滑稽でさえある。そういう 私でさえ何年か前からマスクをつけて診療している。それはインフルエンザの季節にマスクなしで診察した複数の患者からマスクを付けないことを指摘されたからだ。これに対して医学的にいちいち説明するのも面倒 になってきて今では常時マスク着用での診察となっている。また数日前からはわが医院のスタッフも全員マスクをつけている。これもコロナウィルスを恐れてのもので一種異様な情景だが、これも面倒なので苦笑しながらもわが医院ではそのまま全員がマスク姿になっている。

どちらにしろこういうことはマスコミなどが正しく理解して報道する必要があると思う。そうでないとこれからも怖がるあまり医学的に理屈に合わない行動をとったり正しい予防法を採らなかったりと対処法を間違えることになると思う。 現在、この騒動は株価にもかなりの影響を与えていて中国はもとより世界的に株価下落を招いているが、どうか世界中が冷静にコロナウィスルの感染に対処してこの難局を乗り切ってほしいと思う。