ホールインワン

ゴルフを永くやっていると色々なことが起こるものだが、一か月前に生まれて初めてのホールインワンを体験した。この日は冬の曇天の中寒い風が吹いていて、件のショートホールでもアゲンストの強風が吹いていた。１４５ヤードほどのショートホールで普段なら５番ユーティリティで打つところを風と冬で飛ばないのを考えて７番ウッドを選択した。このホールはリニューアルして以来グリーンの中ほどに大きなうねりが出来ていて、いつもはこのうねりでボールの進みが曲げられたりでどちらかと言えば苦手なホールだった。いざ風に負けないように力を込めて打ったボールは狙った方向より少し左に飛び出して行ったものの斜め左からの風とこのうねりで右に方向を変えて最後はバックするようにホールの上からポトリと入った。

ゴルフでは記憶に残る記念碑的な出来事を何度か経験する。思い返せば、初めてのハーフ３０台、初めての一ラウンド７０台。そして人によってはシングルハンディの取得、エージシュートやクラブチャンピョン獲得などもある。このなかで最もラッキー的な要素が強くそれだけに誰でもチャンスがある割にはなかなか経験することが少ないのがホールインワンではないだろうか。その他の出来事はほとんど実力の関与が大きく、特にシングルハンディ獲得やエージシュート、クラブチャンピョン獲得などはほとんど実力だけ の問題と言っても過言ではないと思う。

私の例でいえば、シングルハンディは４９才で獲得して１０年くらいは維持できたが以後は実力は下降の一途だからもう難しいだろう。 エージシュートやクラブチャンピョンなどのイベントは経験がまるでない。エージシュートは理屈上はまだ可能性が残っているが実際は寄る年波で体力は落ちていくので今の力からすると難しいと思う。初めての３０台は３９才の時、７０台は４７才の時でそれぞれ大変興奮したし、今でもその時の感激は新鮮に思い出されるし達成感も半端なものではなかった。またゴルフを始めた時の頃を考えるとよくもまあ自分の能力で達成できたものだと誇らしい感じもあった。

思えば２２才の時に父親に誘われてゴルフを始めたのだが初めは全く上達しなかった。父親は学生時代に野球をやっていたくらいスポーツマンで体格も身体能力も高かた。５０を過ぎてゴルフを始めたのだが瞬く間に上達して数年でハンディキャップ１０までになるほどだった。私はその父親から長身の 体形は受け継いだものの運動神経では母親譲りで父親のようにスポーツ能力は高くなかった。 言ってみれば見掛け倒しの体形で、ゴルフに関してはかなり下手な頃から上級者と見られがちだった。父親はそのような運動能力の面が不満だったようで幼少の頃からリレーの選手に選ばれないことやソフトボールのプレーでの不満をよく 聞かされたものだった。母親はそれがことのほか嫌だったらしく父が亡くなってからもその点を愚痴っていた。曰く「貴方は勉強が忙しくて、お父さんのようにスポーツばかり じゃないからねえ」などと散々聞かされた。今思うと戦争も体験し苦難の連続だった母親の人生で苦労して育て上げた可愛い息子が貶されるのが我慢ならなかったんだろう。

それでも父は私がハンディキャップ１０になった時には「おお、お前が１０ねえ」という感じで目を細めていたのを思い出す。シングルハンディになったのは父が亡くなって数か月後だったのが残念だったが。そういう父親とは学生時代から私が結婚するまでの間帰省をするたびに良くゴルフをしたものだった。最後にゴルフをしたのは２８才の時、私が婚約して仲人を紹介がてら３人でプレーしたのが最後になった。父親は 頑丈で力も強かったが糖尿病 を始め生活習慣病のデパートみたいな状況だったので、体のあちこちを痛めていて６３才の頃には膝や腰の痛みでゴルフを断念していた。 その後の父親の寂しい感じは目に焼き付いていたので、自分は同じようには成ってはいけないと教訓になった。おかげで今現在ほとんど病気らしい病気がないのは父親の 他山の石のお陰だと大いに感謝している。

そういうこれまでの４４年間のゴルフキャリアを思い出した今回のホールインワンだった。幸い保険にも入っていたので、その保険金で長女と次女の家族総勢９人を引き連れて原鶴温泉に一泊旅行に出かけて楽しむことができた。同伴競技者とも宴会を予定しているが、これも保険で賄えるのでホールインワン達成時の話題を肴に楽しみたいと思っている。