コロナウィルス

今は世の中コロナウィルス感染に席巻されていて、マスコミもテレビや新聞のニュースもほとんどコロナ関連が占めている状態だ。当初、私を含めて医師も研究者もこのコロナを甘く見すぎていた嫌いはあるが、 このウィルスはどうもそれほど単純な感染症ではないようだ。ＳＡＲＳやＭＥＲＳ、エボラ出血熱ほどの致命的なウィルスではないので特に若者を主体にあまり恐れずに防御策を講じない面もあり、 ネオン街に繰り出している年配者を含めて外出自粛要請などもピンときてない様子だ。次第に感染者数は上昇の一途を辿りつつある。この点がまさにこのウィルスの嫌らしい所で８割は軽微な症状で推移して、中には不顕性感染と言って全く症状がないまま治ってしまう感染者も少なからずいる。ただし彼らも人には患者と同程度に他人に感染させるのでまことに厄介だ。

そして２割が入院を要する状態にまでなるのだが、その中には急激に肺症状を悪化させて死に至るケースもある、そのスピードも驚異的だ。月曜日に亡くなった志村けんはそのケースで全経過２週間弱で死亡したようだ。なかでも ＥＣＭＯと言って人工心肺を使っての治療をしたにもかかわらず無効だったのは衝撃的だった。この装置は単なる人工呼吸器とは違って血液を体外に出してガス交換してまた体内に戻すもので血液循環の作用も兼ねている。つまり心臓と肺の代替装置で普通の人工呼吸器でさえかなり重篤な状態で使うのだが、このＥＣＭＯは使わないと即致命的な状態になってしまう時に使うものでかなり重体な患者用だと言って良い。それだけにこれを使えば救世の柱になりうると思っていたが、この装置を使っても救命できないとは相当組織のダメージが強かったのだろうと推測される。これは今までこのウィルスに抱いていたイメージとは全く違っていて、これ程多くのコロナウィルスのニュースに接していてもこんなに組織毒性強いとは考えが及ばなかった。

今や世界中で感染が蔓延していて、既にアメリカやイタリアでは中国の感染者数を超えてしまっている。もう中国でニュースになっていた段階から上のステージに上ってしまった感じだ。今後は どうにか先進国の蔓延状態は収束しても南半球や発展途上国での感染が問題になってくると思う。南米大陸、オーストラリア、アフリカ、東南アジアなどでは今から季節性もあって次第に感染が広まっていくだろう。そうすると医療レベルの差が深刻な状態をきたす可能性が高い。現に先進国のイタリアでさえあれ程深刻な現状を招いているし、アメリカも皆保険がないのでかなり酷い状態に陥っているようだ。それからすると南半球が感染の主体になった時にはその医療 レベルから今の世界の状況とはかなり違った深刻さが生じる可能性がある。

それと何時もこういう大災害などの後で思うのだが、許しがたいのはこの惨状に付け込んでぼろ儲けを画策している人間だ。詐欺は言うに及ばずマスクやアルコールを買い占めて転売で儲ける輩が後を絶たない。特にマスクは買い占めで不足した後に法律で禁止して、今では増産体制も整い不足しない程の量が出回るはずなのだが、未だにかなり不足していて我々も診察にさえ困るほどだ。もちろん一般では全く不足状態で我が家も日常に使うマスクが手に入らない。

またパソコンでは毎日の如くメールでマスクやアルコール製剤のセールスが届く。これらは普段では考えられないような法外な値段で明らかに便乗商法、転売ヤーだ。そう易々とこういう輩の話に乗る医師がいるとは思えないが、背に腹は代えられないで良くないと分かっていても購入するケースもあるのかも知れない。またニュースでやっていたが町のドラッグストアの店主が一枚ずつ包装して一個１００円近くで販売していた。この店主は悪びれることなく「手に入らない人たちに感謝されています」と言っていたが、これなんかも転売規制の法に触れるはずだ。まあ石川五右衛門の言う通りで、世の中悪賢い人間は絶えることはないのだと半ば感心する。

そんな中今日もネット上のＣＭだが楽天サイトで一個８０円くらいで大量に出品している業者が居た。これは法律で禁止されている転売に当たりそうだが、楽天も掲載を許している。よく読んでみるとどうやら抜け道があるようで、小さな字で「この商品は海外から直輸入しているので法律には抵触しない」などと記載されていた。まあこの手の業者は法の抜け道を考えるのは天才的なところがあるからさもありなんという感じだった。それより楽天のほうが罪は重いと思う。こういう業者を載せたらだめだろうと思うが、楽天も 最近はいろいろあって経営状態が良くないのでそんな事に目を配る余裕はないのだろうか。

今回のウィルス騒動が怖いのは感染の蔓延が収束しても経済的な面では相当な痛手を残すことだと思う。既に株価は歴史的な下げ幅を記録しているが、初めは 景気の「気」の部分だけだったが今では世界的に実体経済が相当傷ついてきている。また当初、観光面だけと思われていたが今では様々な社会、商業活動において影響が出ている。現に我々 の医療業界でも影響は深刻で全ての診療科で患者の来院数は前年度と比べてかなり落ちてきている。しかも常に患者からの感染のリスクがあり、一旦スタッフの一人でも感染が判明すると即医院を閉めないといけない 状況だ。だから学会や研究会などは軒並み中止になり、みんなじっとこの嵐が過ぎ去るのを首をひっこめて待っている状態だ。そういうことで今は一刻も早くワクチンが作られて 、このウィルスと戦う武器を我々が手にする時が来るように祈っている。