デルタ株→オミクロン株
　

コロナウィルス感染は８月の第５波が悲惨なほど蔓延して、９月１日にデルタ株のコラムを投稿した時はその感染力に脅威を感じその後のパンデミックを大いに危惧していたが、なんと９月の中旬からは急速に収束して、日本で昨日８２人/日の感染者数にまで減ってきている。８月末には２６０００人/日というレベルだったからその減少ぶりには驚かされるし、その原因についても首を傾げるだけだ。これには専門家も誰も明確な根拠を示すことが出来ずに、いろいろな説を出しているがどれもいまいち納得できるような根本的な説明が出来ていない。

一番言われているのがワクチン接種率が上昇して集団免疫の確立に近い状態になっているんじゃないか？という説だ。さらに日本人はワクチンを打ってもマスクをしていて、また外で大騒ぎをするようなことを控えるという識者も居る。日本人の清潔好きな生活感も寄与しているんじゃないかという説もある。またこれは先月ある研究会でスタンフォード大学のウィルス研究者に質問した時のこと、「ある程度リスキーな行動をとる人達には既に感染してしまって、それとワクチン接種者とでもう感染する余地がなくなってきているんじゃないか？」との返事を得た。

しかしどれもこれも日本だけでこれほどの急激な現象を理解する説明は得られなかった。私はウィルス自体の要因が疑わしいと思う。それはデルタ株自体が変異を重ねていくうちに、生存に不適な状態に変貌してしまって自滅状態に陥ったんじゃないかということが最も可能性が高いと思っている。そもそもＲＮＡウィルスは増殖する際にどうしても遺伝子のコピーミスが起こりやすい。それを修正するための ＮＳＰ14酵素があってそれでウィルスの生存を保っているのだが、このＮＳＰ14が変異の際に崩れて遺伝子のコピーミスを修正できなくなりウィルス自体の自滅に繋がっている説だ。

現在、ヨーロッパではデルタ株の蔓延が深刻だ。日本並みにワクチン接種率の高いドイツ、イギリスでも先日５万人/日という感染者数を出している。またロシアやアメリカで はさらに酷い感染状況だ。世界中でこれほど蔓延しているのに日本だけこんな急激な減少を示すのはこの説が一番説明できると思う。ただこれだと日本国内だけの要因なので検疫で海外から新しいウィルスを入れないことが重要になる。そういう時期に今度は南アフリカ発のオミクロン株が出てきた。

これはデルタ株よりもさらに感染力が強く、またワクチンなどの免疫を逃れる術が強いと危惧されている最悪の変異株だ。感染力は空気感染を疑わせるような状況もありかなり深刻な感じだ。それに日本はデルタ株が世界的に見ても落ち着いているので、こういう新しい変異株が入ってくると逆に他の国よりも酷い状態になる可能性がある。それは前から流行っていたウィルスが新しいウィルスを押さえている力が働かないので、新しいウィルスのやりたい放題になってしまうからだ。

そういうことで日本は検疫の重要性が他の国よりもさらに大事になってきて、これによりオミクロン株の完全な流入は押さえることは出来なくても入ってくる時期を遅らせることが重要だ。その間にオミクロン株の情報やこの変異株への準備を備えて、いざ入ってきても十分に対処できるようにしておくことで第５波のような惨状を避けることが出来る。今日から日本でも世界中を対象に外国人の日本への 入国を禁止するなど、世界中でこの変異株にはパニック的な反応が発生している。これは些か過剰反応気味だという意見もあるが第５波の惨状が記憶にあるので国としてもある程度仕方ないと思う。      

兎にも角にもオミクロン株への対処さえ間違わなければ、多分日本は世界でも一番早く収束への道を歩むことが出来る可能性があると思う。ただしもし間違った対応を取ると今までが感染者数が極端に少ないだけに、逆に日本は世界の中でも悲惨な状況に陥る危険性もあるので要注意だ。そういう次第だから日本国民も多少の不便は甘んじて受けることが必要になると思う。せっかく明るい兆しが見え始めた海外旅行などはまた暫く我慢が続くことにはなるが。

最後にこのような変異株が巻き起こす次の第６波に対応出来るように10月から我が医院でもPCR検査器を導入して日々検査に精を出しているが、さすがに今は8月と比べると極端に検査数も陽性者数も減っていて手持ち無沙汰の状態だ。これではわざわざ高性能のPCR検査装置（感度、特異度ともに100％）を導入したことにあまり意味がなかったような感じで、今の落ち着いた状態が永く続くのを期待する気持ちとPCR検査器がガンガン活躍する状態を求める心が混在していて複雑な気持ちだ。どちらにしろ今からの一ヶ月間はオミクロン株の今後の伝播状態がどうなるのかいろいろな面で興味津々の日々ではある。