紅こうじ(サプリ)事件
先月からサプリの紅こうじ問題が盛んに報道されている。なにしろ死亡者が既に５人出ていて入院している者が１９６（サプリの関与がハッキリしている人数は９５）人、体調不良などでの問い合わせは１１２０人になっているので、これはこれまでのサプリによる健康被害としては最大の事件だろう。 世界中でこれまでもサプリによる健康被害は何度かあったが日本ではそれ程知られてなかったように思う。サプリの消費量の多い欧米では ビタミン製剤や鉄剤による発がん性や犠牲者が出るような事件もあってそれなりに注意はされてきた。それに反して日本ではこれまで消費量も少なくそもそもサプリは健康補助食品であり医薬品とは違い、法的にも食品扱いになっていて安全上もそれほど厳しい規制は掛かってない。

ただ注意しなければならないのはサプリの場合は普通に食事をする場合では想定されないほど特定の成分を濃縮して、しかもそれを長期に渡って摂取するのでその成分のトータルの量はかなり多量になってくる。もちろんその成分が身体に良い影響をもたらすかまたは無害な成分だけなら長期に飲んでも問題はないがもしそうでない場合は深刻な害をもたらす可能性が出てくる。しかもその規制は食品並みのものだから結構怖い面があることを認識しておくべきだと思う。

そういう事情もあってこれまで私はほとんどサプリを使ったことはない。唯一の例外はＤＨＡ＋ＥＰＡ製剤でこれは歳を経るにしたがって魚が好みでなくなり肉料理がメインになることが多くなってきたので、文字通り不飽和脂肪酸を補うためにこの製剤を補った方が良いだろうと思い１０年くらい前から摂取している。私の場合は 正確に言うとサプリでなくロトリガという医薬品でしかも 毎日服用のものを週に３回摂取と決めている。実際はこの量なら医薬品ではなく不足している青魚の補助食品としての量になるが 、私の場合は血圧やコレステロールなど他に薬剤を飲んでないこともありそれくらい口から入れるものには気を遣っている。

ところが一般の人達はこのサプリについてかなり無頓着に摂取しているように思う。どうしても普通の食事では不足する栄養素がありそれで日常生活に支障が出ているのならもちろんサプリも価値があるが、そうではなくて何だかサプリでも飲んだ方が良いんじゃないか という程度ならあまり勧められない。それくらいサプリによる健康被害には注意を要すると思う。欧米では ビタミン製剤の発がん性などで大問題になったくらいだからあまりに気軽に利用するのは危ないと思う。それくらい特定の成分を濃い濃度で長期間摂取することには気を遣うことが必要だろう。要は ある集積した特定性分なのでそれなりの注意が必要なのに食品と同じ感覚で使うことは考え物だと言うことです。

今回の事件は初めは紅麹の製造過程では予期しない未知の物質が健康被害の原因でそれの解明を急いでいるという事だったが、その物質はプベルル酸でそれが健康被害の原因になっているというところまでは分ってきたようだ。今はそれがどういう経路で混入したかに追及の目が注がれている状態だ。初めは３つの案が提示されて、まず１．誰かが故意に混入した２．紅麹自体から発生した３．紅麹の培養過程にカビなどが外から入り込んでそれがプベルル酸を発生した。この３つが考えられた。

ただ１と２はすぐに可能性が低いことが指摘され、今では３の外から青カビが混入してそれがプベルル酸を発生した可能性が高いと見られている。人類最初の抗生物質であるペニシリンが同じく青カビから作られることからもこの説はかなり信憑性が高いものと考えられる。プベルル酸も同じく抗生物質に分類されているがその毒性からあまり抗生物質としては使用されてなかったようだ。そういうことで専門家の間でもプベルル酸についてはほとんど知識がなく、今回の騒動の 元である腎毒性については尿細管に障害を来すファンコニー症候群が疑われているが、本当にプベルル酸にそのような毒性があるのかどうかさえもまだ究明されてないようだ。

昨日の報道だと紅麹を培養する際に培養釜に容器の腐食などで外から水が入り込んでそのなかに青カビが混入していて、紅麹の培養過程でその青カビの生育に適した条件下で大量の青カビが増殖してそこからプベルル酸が作られていったというのが実情だろう。衛生には最大限の注意を払っている麹などの製造過程でこのような水の混入など考えにくいのだろうが、それが現実に起こってそこから毒性物質の発生に繋がるというのがこういう薬品やサプリ製品の製造上の怖さだろう。

ともあれ食事以外は薬にしてもサプリにしても必要なものを出来るだけ厳選して、最小限に口に入れるという考えは重要だろう。 サプリには初めは問題ないと思われていたのが１０〜２０年後になって健康被害が表面化したケースがいくつもある。今回、健康被害に遭われた方々は健康のために良かれと思って摂取したサプリで入院などを余儀なくされているわけで大変気の毒だが 、今回の教訓を生かして安易にサプリなどを摂取する習慣は改めた方が良いと思う。