レプリコンワクチン


今月の初めからこの冬のコロナ感染症に備えてワクチン接種が再開されている。ほとんどはこれまでのワクチンと同じように進められているが、今回のワクチンは世界中で開発が進んでいろいろなタイプのものが製造されてきている。これまでのファイザーやモデル製などの既存品に加えて日本の第一三共、明治製菓、武田社製の３つの選択肢が増えてきている。それらはいずれも特徴があり我々医師はその特徴を理解してどれかを選ぶことになるが、ここにきて少々困った状況になっていて医師がその特徴を鑑みてワクチンを選ぶことは実際上不可能な状態になっている。

それは一般の人たち（特にネット上で顕著だが）がこの新しい日本のワクチンに対して拒否反応を示しているからだ。その中でも明治製菓と武田社製のワクチンは非常に使いにくく明治製菓のものは実際上使えない状態になっている。武田社製ワクチンは遺伝子組み換え技術を使っているし、明治製菓社製はレプリコンワクチンといってコロナウィルスのスパイク蛋白を規定するmRNAが体内で自己複製する技術を採用した製品になっている。この遺伝子組み換えや自己複製という言葉に反応したのだろうが、今社会ではこのワクチンを使った人への拒否反応が表面化しつつある。

ある店では「当店ではレプリコンワクチンを接種した方は入店をご遠慮願います」という張り紙を出しているところも現れて問題になっている。これはシェディングといってワクチンを打った人から他の人へウィルスの感染がおこるということを懸念しているのだが、これは根拠のない話で一時そういう論文が出回ったが医学の世界では認められてもいない。生ワクチンの場合ならそういう事もまったくないと は言えない話だが、ウィルスを丸ごと使ってないmRNAワクチンでそういうことは起こりえず理屈から言っても全くおかしな話だ。ただし日本看護倫理協会という団体が大真面目にその懸念を表明したことが一層拍車をかけている。

このレプリコンワクチンはこれまでのmRNAワクチンと同じでスパイク蛋白を規定するmRNAを体内で増やす酵素が含有されているだけの話で別にウィルスが増えるわけでもなく、そのmRNAにしても一週間で減り始め３週間で体内から消滅することが確認されている。世界的にも非常に厳しい日本の厚生省も認可しているくらいで全く問題ないと思うのだが、世間的には 一部の人たちの間でもうこのワクチンは怖いものだとのイメージがついていて、ワクチンを接種している医療機関にはそういう怖いワクチンを使っているかどうかの問い合わせ電話も届いているようだ。

実は私もこの新しいワクチンに興味があり使うことも選択肢に入れていたが、こういう状況ではこのワクチンを使う環境にはないと思うし、その内容をいちいち説明して理解を得る手間も時間も持ち合わせていない。こういうよく分からない言葉に条件反射的に反応して拒否反応を示す人には これまでの経験からどれほど言葉を尽くしても理解を得られることはないだろうという無力感が強い。現在のコロナの流行状況を考えると、今回のワクチン接種の対象者は６５歳以上の人が主体でわざわざ高い実費を払ってまで受ける人は少ないだろうと思われる。そういうこともあり当院でも波風が起きやすいレプリコンワクチンは使わずファイザー社製のワクチンを採用した。それでも メリットもあり優れたワクチンだと思っていた選択肢を封じられた現在の風潮には釈然としないものが残っている。

そのそもワクチン自体に一部の人たちはどうもある種の嫌悪感をいただいているんじゃないだろうか。世界中でワクチンはだれもが新生児より数多くの疾患を免れるため接種してきている。 この世の中でワクチンを一度も接種してないという人はいないはずだ。それなのに最近はネット上でワクチン拒否派がかなりの勢力を誇示していると思う。それはSNSが世間に広まってきたこの１０〜２０年の話だが、いろいろな陰謀論や真偽のあやふやな情報が以前よりより拡散されやすくなってきた気がする。なかにはちょっと自分の頭で考えたらすぐに分かるだろうとも思われるような陰謀論にも簡単に引き込まれる人もいる。自分の身を守ることにも繋がるのでSNS上での確信の持てない情報にはまず疑ってみて他の情報を当たるくらいの用心は必要だろう と思う。