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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　利益相反(COI)

もう１５年くらい前になるだろうか、私の属する医療界で利益相反という言葉が頻繁に使われるようになった。これは研究者が企業などからの資金提供や他の利害関係によって研究結果の客観性に影響が出る可能性を指摘するもの。例えば特定の企業の製品を評価する研究において、その企業から研究資金を提供されていたり、その企業の社員が研究者であったりする場合がCOIに該当する。研究に影響を与えるわけだから当然事前にそれらを知らせる必要がある。最近の学会ではすべての演題の発表前に必ず「本日の発表に関してCOIはありません」または「本日の発表に関して○○製薬会社から研究費を得ています」と言う感じで、事前に表明することが必要で、それが常識だと思っていたがどうも医学界以外ではそうでもないらしい。

と言うのは、日常でよく見るテレビニュースなどでコメンテーターの発言に違和感を覚えることが多くなってきた。特に弁護士系のコメンテーターは日頃法律上の要件に対して厳密に種々の注意をするのに反して、自分たちはかなり緩やかな利益相反の概念しか頭に入れてないように思われる。初めCOIは医学界での特有な制度で司法関係ではそれ程縛られないのかと思っていたが、調べてみるとそうではなく法律の世界でもCOIはかなり厳密に規定されているようだ。それはそうだろう、例えば離婚裁判において夫側の弁護士が妻側からも料金を受け取っていたら、これはもう夫側は公平な裁判なんか期待できない。司法界も医療界と同じ厳格さでCOIを考慮する必要があると思う。

ところがマスコミの世界ではその辺りがかなり曖昧だと思う。そのことを初めて感じたのは中居問題での菊間弁護士の発言からだった。彼女が当初この問題でテレビのコメンテーターとして発言した時に、他のコメンテーターが問題になっていたフジテレビの社員を厳しく非難するのに対して彼を擁護する発言に終始していた。普段、彼女は女性の人権などの問題に対して厳しい追及をするスタンスだったのでこれには少々違和感を持ちながらも、さすがに元フジテレビに居たので内情に詳しいく一般人が知らない情報を得ているんだなと好意的に解釈していた。ところが別のコメンテーターが「菊間さんはフジテレビの顧問弁護士なんでしょうか？」と質問した。それに対して苦しそうに「私はフジテレビの顧問弁護士だということは認めますがこの件に関しては相談は受けていません」と返答した。

私はこの予期しない発言にははっきり言って不信感を抱いたしそれなら話はまるで違うんじゃないかと思った。これは完全にCOIの範囲でフジテレビの顧問弁護士である彼女がこの問題に対してフジテレビを公の場で擁護する発言をすることは間違っている。例え彼女が正しいことを言っていても、COIを黙ったまま顧客を擁護すると本当にこの案件については相談を受けてないにしてもそれを信じる人は少ないだろう。COIは事前に明らかにしておくことが重要で人から指摘されて言ってもそれはもう不信感しかない。その後、彼女はその件について発言をしなくなったようだがそれは当然だろう。一度、色眼鏡で見られたらそれ以降は彼女の発言は同じように見られるだろう。

その次に感じたのは橋下弁護士だった。彼の場合も中居問題での発言だった。これは最近の話だが、中居本人が第三者委員会に自分の意見が不当に扱われていると反論してきた。それに対してのニュースで、橋下弁護士がかなり執拗に中居擁護の意見を述べていた。その内容は中居本人も主張するべきところは主張すべきで、現在は不当に非難されすぎているといったものだった。ところがこの発言を聞いているうちに自分が弁護士として中居サイドから意見を求められてそれに対して助言したことが判明した。彼が中居サイドから料金を受けたうえで助言したのかまた無料だったのかはこの際関係ない。弁護士として助言したということは明らかにCOIに規定される。これは弁護士が顧客に助言をしてそれと同じ意見をテレビでいかにも一般論のように披露していることになる。これなどCOIそのもので明らかに問題だと思う。

またコメンテーターの古市憲寿氏もどうも同じ穴のムジナじゃないかと思わせる発言をしている。それはやはり中居が第三者委員会に反論したことに対して、中居が第三者委員会に反論したことが本当なら大問題だと言ったことだ。私は知らなかったが古市氏は中居が司会をしていたテレビ番組の参加を通じて親交があったということだし、古市氏が大問題だという中居の発言を第三者委員会が採用しなかったことについては他の弁護士は中居が言った内容が信頼性に欠けることが理由だろうと見解を述べていた。古市氏の場合は厳密な意味でのCOIに当たるかどうか分からないが、これも一種のCOIに関連する事項じゃないだろうか。テレビと言う公器を使って自分と親交のあるタレントを庇うとはある種の利益を得る可能性があるので、テレビなどではCOIを考えて慎重に発言するべきだろう。

現状ではこの３人ともあまりCOIとして問題になってないようだが、まだ世間ではCOI自身に馴染みがないのか、マスコミとしては交流のある識者をあまり非難したくないのかも知れない。マスコミとしては視聴率を稼げる識者をわざわざ攻めて失いたくはないのだろうか。そのような３人は次に挙げる御仁に比べるとまだ害が小さいかもしれない。それはアメリカのトランプ大統領のことだが、問題発言がそれこそ山ほどあるトランプだが、彼のCOIに関してはもう看過できないレベルに達している。先月だったかSNSで「株が上昇するからみんな買え？」とぶち上げてその翌日株価が急上昇する政策を発表したり、ガザや中近東で自分の子供や親族が関係しているトランプコーポレーションの事業に貢献する政策を打ち出したりでやりたい放題だ。これなんかはCOIと言うレベルを飛び越して犯罪と言っても良いくらいで国家レベルでの親族への利益誘導政策だ。

こんなでたらめな政策を行っても黙っているアメリカ国民はいったいどうしちゃったのかと思うが、彼のようなとんでもない大統領が戦後８０年間をかけて築き上げた自由主義世界を破壊することが分からない程アメリカの国力や余裕がなくなってきたということだろうか。民主主義や基本的人権などの理念などまったくどうでもよくて、どれほど酷い虐待を行っている国であってもアメリカの利益になるディールさえできる国なら厚遇するというトランプは戦後最低の大統領だと思うがアメリカ国民がそう思わないのなら外から何を言ってもどうしようもない。COIからは少々脱線したしまったが一刻も早く彼が退くことを願うばかりだ。そういうことで今回はCOI無視という公平の理念に反する言動が増えつつある現状に危機感を感じて投稿してみた。